中心商店街の活性化と21世紀型生活者
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地産地消地住のすすめ ---
タウン誌『織人』を通して目指すもの
講師:小保方貴之先生(おぼかたたかゆき)
大量生産・大量消費の20世紀を終え、地方都市“冬の時代”と言われる現代。21世紀における地域商店街と生活者の新しい関係はどう変化してゆくのか?桐生の商店街における住民の新しいライフスタイルとは?そのマーケットに適した“メディア”のあり方とは?タウン誌『織人』のコンセプトを通して、的確で意味のある情報リリースの方法とその内容について明らかにしてゆく。
1 雑誌について考える
■1 これまでの雑誌の姿
@ 広告を取る(10万円程度/1ページ、雑誌によってはそれ以上の金額になる)。
A 広告売り上げによって印刷代、編集費用、人件費などを賄う。
B 取材、編集作業、販売。
◆会社側から見た場合
○メリット
・広告売り上げによって、支出のほとんどを補うため、雑誌の売り上げのほとんどが会社の利益になる。
・ページ単価×広告数で、売り上げの見込み、確定がスムース。
・一冊作るだけで数百万〜数千万の売り上げになるetc
●デメリット
・広告が取れなければ、雑誌が作れない。
・広告主の都合で、扱える記事に制限が生まれる可能性がある。
・広告ページが必然的に増えるetc
◆読者側から見た場合
○メリット
・多くの広告の中から、自分が気に入ったものをチョイスできる → これくらいか!?
●デメリット
・不必要な広告が多く、ページがかさむ。
・記事に制限が出た場合、必要な情報を得ることが困難になる。
◇適した雑誌は、専門雑誌(パソコン、建築etc)など。
・タウン誌の場合、広告の方向性によって、読者に「こういう雑誌」というイメージを与えてしまう危険性がある。
これまでの雑誌の作り方は、作り手主導と言える。専門誌の場合は、その分野に特化した人材が製作するため、ある程度の売り上げは見込めるので、この方法は有効だが、タウン誌においてはこの方法がベストとは言い難い。
■2 現行タウン誌に見る特徴
それでは、実際に現在創刊されているタウン誌の現状を見てみたい(ここでの分析は各雑誌を相対的に見た場合)
1 「すたんぴーど」
10年以上前に創刊された群馬タウン誌の草分け的存在。
正確な部数は確認できないが、ほぼ1万冊刷られている模様。
群馬県全域をカバーした情報を載せているが、群馬県人の特徴として生活範囲が狭いため、結果的に不必要な情報を多く含むことになるか。
ターゲットは20代〜30代の男性、女性。そのため、内容がの充実が課題。
昨年末出したラーメン特集は通常月の倍の部数を販売した。
ラーメンの人気は、それぞれの生活圏を逸脱するということか。
2 「Otome」
数年前に創刊された雑誌。大判(女性ファッション雑誌のサイズ)で写真に力を入れている。
専門の写真家を雇い、ゆったりしたレイアウトが特徴
20代〜30代前半の女性をターゲットにした雑誌。女性的視点、女性の好みなどが色濃く反映されている。
「楽しそう」「おいしそう」「雰囲気良さそう」というイメージ先行の記事作り。
3 「遊とぴあ」
いわずと知れた群馬風俗雑誌。
「風俗」という特殊カテゴリーながら、広告売り上げが絶大。
某コンビニエンスストアには?料で配布。コンビニはそれを販売し、その売り上げはすべてコンビニに入るシステム。結果的に知名度アップ。雑誌のブランド化。
記事は男性向き。ミニカーショップの特集など、20〜30代男性をメインにした作り方が特徴。風俗への欲求は、行動範囲が群馬全域にまで及ぶということ?
女性好み←―――――――――――→男性好み
「Otome」 「すたんぴーど」 「遊とぴあ」
○これらの大きな共通点 → “マスメディア”としての雑誌作り。
* 読者層を年代に分け、その世代に喜ばれるものを考えるのが特徴 → その対象は「大衆」
2 マーケティングについて考える(参考文献:森行生著/シンプルマーケティング/2000年刊)
■1 マーケティングにおける「生活者」の定義と「ライフスタイル」の変化について
@生活者(消費者)は以下の3つに大別している。
1 「自分でモノの良し悪しを判断できるイノベーター」 全体の10%
2 「イノベーターの動きに敏感なアーリーアダプタ」 全体の2〜30%
3 「“流行っているから”が購買動機のほとんど占めるフォロアー」 全体の6〜70%
* 森氏は著書の中で、これらの割合はどの時代もほぼ同じであるとしている。
A時代によるライフスタイルの変化(ODS社―LSI“ライフスタイルインディケーター”の分類による)
森氏は、戦後から現代までを6段階に分けて分類している.
◇これらを個別に見てゆくと以下の通り。
・ 戦後/基本的欲求 →食べられればいい、住めればいいという基本的なニーズの時代
・ 50年代/雷同の欲求 → 他人の目を気にし始め、隣が持っているからうちも欲しいという衝動からの欲求
・ 60年代/優越の欲求 → 他人より、イイモノを“揃えよう”という欲求
・ 70年代/差別化の欲求 → 他人とは違うものを手にしたいという欲求
・ 80年代/主観化の欲求 → 専門的な知識が必要なマニアックなものが欲しいという欲求
・ 90年代/適正の時代 → 自分の身の丈にあった、ふさわしい生活スタイル
これらは、“物質”“経済”“技術”の“発展”“維持”“衰退”によって、変化を遂げてきた。
→ では、2000年代はどのような時代か?(バブル経済崩壊から10年で低迷したままの景気)
■2 2000年代に入ってからの変化
◆これまでは、単なる“消費者”を生活者と呼んでいた。
・それまで → 経済は常に発展してゆく、という条件下の元での欲求
・ 現在 → 経済状況は国際情勢によって左右される、という条件下の元での欲求
→ 最大の変化は、バブルを知らない世代が社会に出たこと
◆2000年代/マニアの欲求 → 自分が特化した分野には支出は惜しまないが、それ以外についての欲求は希薄
・価格ではなく、個人個人が知識を得て、その価値を見出す時代
→ “消費者”が“発信者”になり情報を共有 → インターネット、趣味雑誌の発刊ラッシュ
趣味趣向の細分化によって、生活者の3タイプでの分類よりも、各分野(ファッション、車、パソコンetc)が3タイプの消費者を持つことになった。
3 桐生市とはどのようなところか?
■1 桐生市のイメージ
仕事がら県内各地へ取材。商店主を中心に聞き取りを行う(150名程度)
* 共通した発言 → 「昔は良かったけど、今はね・・・」 また、商売のしにくい場所という感想も多い。
桐生で若いころに遊んだ事のある人はさびしいという声も
■2 桐生復興のキーポイント → 行政の視点、その現実。
◆1 桐生のキャッチフレーズとイメージ → 別紙参照
以下要約
@
キャッチフレーズについて
岡部氏 → それ自体はさほど意味がない。地域の文化、歴史を学び、桐生人としてのアイデンティティを持つ。
自発的な努力目標としてキャッチフレーズがあるべき。
また桐生における最大のキャッチフレーズは「桐生」という名前そのもの。
行政側 → 自然発生は難しい。苦労して出てきたんだっ!
A
イメージについて
岡部氏 → 街並みに関しては統一感を重視し、公共施設に関してはランドマークとなること。
行政側 → 桐生らしい、その地区らしい景観形成に努める? → その前は理解不能?
◆2 岡部氏の発言 → 「桐生における最大のキャッチフレーズは“桐生”という名前そのもの」
・
高校野球などによる全国的な知名度、織物の街として過去など
“桐生”という名前そのものがブランド → “桐生”というステイタスの復権
◆3 桐生の商店街については専門店が中心 桐生には高いもの、イイものがあるという生活者の認識。
→ “ファッションのまち” → 昔「桐生着道楽オトコのおしゃれ」
ファッションのまちとして特化し、ファッションの分野のイノベーター、アーリーアダプタが喜ぶ街になること。
・
太田、伊勢崎のような量販店(フォロアをマーケットとする)
→ × 売り場面積、販売量での勝負は桐生にとっては不利。
4 タウン誌『織人―おりじんー』のメインコンセプト
■1 これまでのまとめ
@
雑誌について
広告と記事が連動する雑誌は“専門書”などに適している。
A
これからの生活者について
趣向の細分化によって、各分野が3つの消費者(イノベーター、アーリーアダプタ、フォロア)に分かれる。
B
桐生復興のカギ
“桐生”というステイタスの復権。
C
商店街について
“専門店”としてプライド、ファッションにおいてイノベーター、アーリーアダプタを大切にする。本物を扱う、本物がある街としてアピール。
商店街がスポンサーのタウン誌『織人』のコンセプト
→ 桐生の良さ、文化、歴史をアピールしながら、商店街の持つ専門店を紹介し、「桐生にゆけばいいものがある」というイメージを消費者に定着させるための中央商店街のマニアを作る専門誌を作る。
■2 各コーナーについてのコンセプト
@
特集記事 → 桐生市の歴史、文化などを掘り下げ、ストーリーやエピソードを大切にした読み物的記事
狙い)これまであまり知られていなかった街の側面を知ってもらうことで街、桐生そのものへ興味を持たせる。
“桐生人”としてのアイデンティティ育成
A
中央商店街ショップレポート → 各店1ページの広告記事。
狙い)売り手の顔を見せることで、消費者に親近感を持ってもらう。
B
電子レンジ料理 → 電子レンジを調理器として使う方の誌面料理教室。
狙い)電子レンジの“扱い方”そのものに対しての新しさに、また学生、男性などにも“使える”ネタとして関心を持ってもらう。
C
のこぎり屋根写真 → 写真家、吉田敬子氏の作品を紹介
狙い)桐生には「文化がある」、「歴史がある」ということを再確認。しかし、記事の内容は提言的な方向。
D
中央ビル居住計画 → 空き室となった中央ビルに住むという内容。
狙い)コンペティション形式で入居希望者を選別。入居者には桐生に住む理由、意味を考えてもらい、街に参加してもらう(単なる消費者ではなく、生産者として)。入居対象者を消費者で言えば、イノベーター、アーリーアダプタの分野を持った人となる。桐生に住むことへの憧れを抱いてもらい、ステイタスの復権を目指す。
桐生の中央商店街周辺は、徒歩圏内に公共施設、交通機関があり、生活しやすい場所。消費、生活、生産のバランスの取れた街といえる。その全てにココにしかない“特別”を作る。
5 その先の目標、“桐生”の可能性 → 桐生ステイタス復権の先にあるもの
中央商店街の“桐生の中心”としての役割
以前 → 街並みを整えたことで近代化を図り、商業地としての活気を取り戻した。
これから → 情報のリリースによって、行政区分ではない「桐生」の中心となる(合併後、桐生市という名前を残すか、“桐生”という名前を残すか)。
・
住みたいという人を増やす → 桐生に住むことにステイタスを与える。
◆ステイタスの実例
○東京―下北沢
・20代から30代の男女に人気。物件はワンルーム中心で家賃の価格帯は7〜8万円前後(ワンルーム)。
・古着屋、CDショップ、カフェ、レストラン、ライブハウス、劇場が揃うまち。
・駅を中心に200Mほどが商店地域、その周囲は居住地域。
・駅から数分で八百屋、せんべいや、魚屋、肉屋など。生活の匂いがある。
→ 生活者は、音楽、ファッション(古着中心)、サブカルチャーのイノベーター、アーリーアダプタが多い。
○東京―自由が丘
・20代〜40代のOL、ミセスに人気。
・女性ファッションのイノベーター、アーリーアダプタが多い。
・雑誌などでも特集されるほど。
・下北沢と同様、商業と居住、2つの地域がある。
・白金台なども似てる(?)。
◆『織人』を街に住む人たちが自由に発言でき、行政に提言できるようなものへと発展させる。
→ 行政主導の街づくりの終焉
◆
住みやすいこと、街で買い物することが楽しいこと、商店街に活気があることはすべて同じなのではないか?
何か一つを特別扱いしたところで、街は変わらない。→末広町チャレンジショップの失敗など。
◆ 段階的な仕掛け、働きかけが必要 → そのために『織人』を活用する。
第一段階 織人の活動を通して、少しずつ街に住む人、街に来る人の意識を変えてゆく → 『織人』の発刊
第二段階 桐生という街が特別な場所となる仕掛けを用意してゆく → “桐生”というブランドの確立
第三段階 人が住み、そこで買い物をし、商店街が潤い、活気のある街が形成される → 魅力ある街の誕生