三友仁志氏発言

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「まちづくりの現場が求めるネットワーク」
―― 地域コミュニティ活動と次世代技術の融合 ――


西山
:ありがとうございます。新しい技術にも色々検討していかなければいけないところもあると思います。
このシンポジウム自体が、地域の活性化、情報化に、新しい技術がどのように応用できるかということを考えるものなんですけれども、今までの地域情報化の多くは国の予算によって行われてきました。その用途や範囲というのは規定されていて、トップダウンの方法で実施されてきたという現実があります。多くの市町村や県が、予算を使って事業の枠組みの中で地域情報化を進めてきたというのが現実だと思います。
今の星合さんのお話、それから吉浦さんのお話をお聞きしていると、新しい技術への可能性が見えてきたと思います。その中で、地域活動でこの技術をいかすにはどんなアプローチが必要なのか、この点について情報化の取り組みを実際に実践されて、分析されてきた三友さんにお話をいただきたいと思います。

三友:私は地域情報化に関して、社会科学的な観点からメスを入れてみたいと思っています。3つの内容から私の話は成ります。
最初の内容は、「地域情報化の失敗から学ぶ」です。
失敗とは誰もが認めたがらないものなんです。これまでに地域情報化という言葉は何度も使われてきました。じゃあその地域情報化とは何なんだろうと聞いたときに、誰もクリアな答えを言えないわけです。

“情報化”という言葉は、非常に便利な言葉である反面、英語にしようとすると困る言葉でもあります。それに地域が付くとますます混沌とした雰囲気となります。
これまでも地域情報化は色々な形で行われてきました。もちろんうまくいっているケースもありますが、多くはあまりうまくいかなかった、長く続かなかったというケースです。
その中身を見ますと、ほとんどが公共事業型の地域情報化でありました。インフラを作らなくてはならないという使命があったわが国においては、当初は必要でもあったわけです。
それから、いわゆるディジタル・ディバイドと言われている、都市部と地方の格差をなくすべきだという議論の元では、地方への情報化政策としていろいろなことが行われてきました。それらの多くはトップダウン型で行われてきました。
それぞれに意味はあるわけですが、ではうまくいっているのかというと、なかなかうまくいっている例を見ることが出来ません。

例えば、『田園マルチメディア事業』というのが農水省の予算で行われていますが、牛小屋にまで光ファイバーを引いても、それをどう使うかという目的がないわけです。
それから、インフラ型事業として、マルチメディアセンターをいくつも作った県があります。しかし、コンピュータをそこに置いても、子供がゲームをやっているだけであったりしています。

つぎに第2の内容として、地域情報化の手法に関する考え方をお話します。
先ほどクライアント・サーバー型という言葉が出てきていましたが、地域から情報を発信するというケースでも色々な問題が出てくるわけです。
それは、サーバーを誰かが管理しなくてはならない、そのために特定の個人に労力が集中してしまう、特定のノウハウを持っている人だけが管理できるため、その人がいなくなると何もできなくなるといったことです。
このような問題点を含めて、地域情報化を実際に行うにはどうしたらいいのか、少なくともインフラ整備のことはここでは論じる必要はないと思いますので、ネットワーク形成から少しお話をさせていただきますと、これからお話しする2つのパターンがあると思います。

1つは、コンテンツ形のサービスでして、情報を提供するタイプです。先ほどの星合さんの話では第2世代に当たるのかもしれません。これは情報を提供する提供者がいて、それに対して利用者がアクセスをするという形を取るものです。
実際に利用者が利用するかどうかは、料金と、もっと大きな要素として、提供される情報の価値に依存します。先ほどホームページについての評価を行っていましたが、なかなか価値のある情報を提供するというのは難しいことです。
もう1つの方法は、対話型のサービスでして、これはそれぞれの利用者の間にコミュニケーションが、このネットワークによって形成されるというものです。
ただし、もしこれが電話のようなシステムになりますと、ある程度の利用者が集まらないと実行可能にならないという問題があります。
両方のサービスのメリットデメリット、2つをうまく組み合わせることで地域情報化を進めていくと、より効率的であろうと推測されるわけです。

お話したい第3番目の内容ですが、P2Pの地域情報化に対する意味です。P2Pというものを今の分類にしたがって評価しますと、地域情報化に対して、おそらく、「コンテンツ型のサービスを対話型のサービスに近い形で提供する」という意義をもつことになるでしょう。うまくやれば先ほどの2つのメリット、すなわち少ない加入者でも対応が出来るし、ネットワーク効果があって利用者が増えるにつれ、費用効率が飛躍的に向上するという二つのメリットを追求できる可能性があるということです。もちろんそれぞれ固有のメリットをすべて共有することはできないでしょうけど、ある程度のメリットならば享受することができると思います。

さらに、地域情報化を進めていくにあたって、いくつかの必要条件があります。
まず、ある程度の効果が見込まれなければいけない。かける費用に対しての効果というものがある程度必要あるわけです。
それから、公共性というのが非常に重要になるのだと思います。これはあまり厳密な意味での公共性ということではないのですが、ある特定の個人に利益があるのではなく、コミュニティで活用される情報でなければいけない。
それと、完全に閉じていていはいけない。外部との接続がある中で、グループに情報が提供されるといった公共性が必要ではないかと思います。
そして、有効な情報でなければいけない。P2Pの場合、著作権問題で色々ネガティブなイメージがあるんですけど、そういう問題からP2Pは独立しなきゃいけないと思います。
それから、地域情報を配信するにあたって、これまでの情報の非対称性、つまり、ある人とある人の間で持っている情報にかたよりがある、といった問題を解決する必要があるということです。それによって、完全な情報の共有化が図れるであろうと思われます。

これらの条件の中から公共性をさらに考えてみましょう。公共財という経済学の概念があるのですが、それは、2つの性質から成っていて、1つは特定の利用者を排除できないという性質と、もう1つは利用するにあたって競合が起こらないという性質です。もし、その両方の性質を満たす、完全な公共的なものであれば、一般的なP2Pであるといえます。
しかし、ある程度の地域固有の情報であって、他の地域の人にはあまりメリットがない情報が、ネットワークの中で共有されている状況であるならば、それは結果としてある種の排除性が成り立ちますので、地域P2Pとなるわけです。

今後の課題として、メリットばかり言っていましたが、技術は手段であるということを忘れてはいけません。このフォーラムはP2Pのフォーラムですけども、P2Pありきの議論をしてはいけないだろうと思います。P2Pでなければいけないんだろうか、我々が求める地域の情報の共有化において、P2Pという技術が一番いいのだという確証をどこかで得なければいけません。

それから地域の情報は常にボトムアップ型の情報発信でなければいけないということです。これは地域の皆が興味を持ち、地域の皆が情報発信できる、ということです。
最後にこれが一番大事かもしれません。我々は人と人との繋がりを持っているわけですが、それがコミュニケーションでありコミュニティです。それらのコミュニケーションのレイヤーとP2Pなどの技術のレイヤーが重なって初めて使われるようになるということです。したがって、そのレイヤーをいかに重ね合わせるかという努力を、ネットワークを構築する上で我々は考えなければならないと思います。以上でございます。

西山:どうもありがとうございました。
世間では地域情報化を進めることが、地域の課題解決に有効であるという潮流が出てきたのは90年代でしょうか。そういう中で三友さんが指摘された通り、どうも失敗から学ばないといけない状況だというのは、今の時代では事実だと思います。そこにはどうやら地域の求めた情報化ではなかったのではないかという反省と同時に、そもそもそこでいわれている地域活動自体が間違っていたのではないかという批判もあるわけです。

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