桐生お召しに関わる職人たち
桐生お召しと職人の系譜
桐生市老人クラブ連合会/NPO法人桐生地域情報ネットワーク

小堀 趣味はね。ちょっと生意気ですけど、音楽を聞くことが好きなんですよ。

石川 どういうジャンルの音楽ですか?

小堀 100%クラシックなんですけどね。なかなか生演奏を聴くっていう機会は少ないけれど、群馬交響楽団だけはね、会員になってだいぶ長いんですよ。

石川 こういう仕事してる人は、楽器も使えるんじゃないんですか?

小堀 いや〜音痴だからねえ。やる方は駄目なんですけど、結構自分の部屋にはCDやレコードがありますよ。最近はレコードに戻ってきましてね。やっぱりあっちの方が良い音が出ますから。

――オーディオにも凝られているんですか?

小堀 いや、そうでもないね。本当はうるさくなりたいけど、きりがないですからね。2、3年前にフルートの大島さんっていう方が、えらい装置を持ってきて地下室で聴かせてくれたことがあったんですよ。本当にいい音が出るなと思っていたら、1400万円もするって言うんですよ(笑)。

――へえー。

小堀 真空管でね。とってもいい音でしたよ。

――当時、飲み行くっていうと仲町あたりだったんですか?

小堀 そうですね。

――仲町ってやっぱり今のように賑やかだったんですか?

小堀 バーはなくてね。おでん屋さんとか、一杯飲み屋っていうか、小料理屋さんだな。

――うちの母ちゃん側のじいちゃんが、今年80くらいなんですけど、呉服屋だったですよ。僕が生まれ前には、しょっちゅう桐生に来ていたらしくて、岡公園とかを知ってるんですよね。で、僕が桐生に来たよって言ったら「岡公園の桜はきれいかい?」なんて聞いてきたりして、他にも色々と話を聞いてみたら、夜の桐生は……。

小堀 夜ねえ……。機屋さんが全盛の頃とかは、そりゃあ裕福で良かったろうな。芸者もかなりいたしね。ほら機屋さんて、わりと派手だから(笑)。でも僕らは、そんなん行けないですよ。そんなに使えやしないんだから、せいぜい小料理屋だったね。

石川 文部科学省も国内の物作りを、色々と見つめ直そうとしているようですけどね。

小堀 まあね。これから先のことを考えると、若い人にもっともっと研究してもらって、本当はよその県に負けないようにしていきたいってところだけどね。

石川 最後に一つ、若い2人にプレゼントする言葉があれば。

小堀 いやいやいや、そんな。それを聞いて、俺みたいになっちゃなぁ(笑)。ただね、私たちにできなかった何かが、まだあるんだよ。その何かを掴むことができなくって、今もこうしているんです。要はそれだけ奥が深いっていうのかな。長嶋の言葉じゃないけどさ、僕は繊維は永遠だと思ってますからね。

石川 繊維は永遠ですか。

小堀 何の商売でもそうですけども、これで良いっていう事はまずないですよね。つい一週間前だって、さっきの本に印がしてあったけど、シェニール織りってやつでね。ちょっとした事がそこに書いてあって、ああ、こんなことができたんか、なるほどなって今になって知ることもあるんですよ。勉強不足だったからって言えばそれまでなんだけど、そうやって一つずつ覚えていくっていうか、会得していくことがまだまだありますから、やっぱりこの世界は奥が深いと思うんだよね。それだけに遣り甲斐もあるわけだし。何より面白さがあるから、張り合いっていうんも出てくるのかもしれないな。
 それと私は何かと考えるのが嫌いじゃないんでね。いつも寝る時には、必ず枕もとにメモと鉛筆を置いておくんですよ。夜中に目が覚めることが多いもんですから、その時に考えたことを忘れないようにメモしてるんです。意外と、あれって思うようなことも出てきますからね。
 まあ、物を食べるにも酒を飲むにもおいしいものがあるように、商売にも楽しみっていう旨みがあるんじゃないかな。それを見つけて商売に打ち込んでいくと、また一味違うものを作り上げてくれるんじゃないでしょうか。若い人に一言なんていうのは、私みたいのが恐れ多くて、あんまりいい言葉を言えませんが、まあ長年の経験でそんなことを思いますよ。機会があったら、また是非お寄りになってくださいね。

――もう、ばっちり場所覚えちゃったからね(笑)。

小堀 ぜひ若い人の知恵をわけてほしいな。

――今度飲みたいなあ。

小堀 8年前に大病にかかっちゃったんだけど、少しだけなら飲めるんですよ。本当は好きなんですけどね。

――僕ら群馬大学の啓真寮に住んでいるんですけど、毎年、地域交流会っていうのをやってるんです。地域の方たちへの御礼と、うるさくしてご迷惑をおかけしましたみたいな、お詫びの意味を込めて。僕らのなけなしのお金を少しずつ貯めて、料理とかを作って出すんですけど、ぜひ来て頂きたいです。

小堀 ご一緒できたら嬉しいです。また声をかけてください。

――はい、今度の12月14日に餅つきがあるんで、ぜひ来てください。

小堀 そうだ、電話番号はわかりますか?それじゃあ今、私の名刺を持ってきますね。

――俺らの連絡先も書いて渡そう。

小堀 じゃ、名刺をどうぞ。ずいぶん古いやつですけどね。

――それではそろそろ。

小堀 長い間お付き合い頂いて。お役に立てませんでしたけど。

――いえいえ。こちらこそどうもありがとうございました。

御子柴孝晃(群馬大学工学部4年)
 今回初めて紋紙というものを見て、また、その莫大な作業の話を聞いて、想像がつかない程の大変な仕事をしていたと思うと、ただすごいとしか言葉が出てきません。小堀さんの話している顔を見ているとその表情から、本当に自分の仕事への興味が尽きないのだなと感じました。自分を信じて自らの仕事を職人としてまっとうしているその姿は本当にかっこいい。
 忙しい仕事の数少ない休みに小料理屋に行った話は色んな意味で勉強になりました。人生お金が全てじゃなくて、ちょっとしたことに幸せを感じられる人間に是非私もなりたいと思いました。今度また、織物の話とは別にお酒でも飲みながら色んなお話を聞かせてもらえたら嬉しいです。本当に出逢うという事は楽しくてしかたがありません。取材に関わらせていただいたことを感謝します。ありがとうございました。
◆第2回インタビュー取材データ◆
【日時】2003年11月6日(木曜日)13:00〜15:00
【場所】小堀氏宅
【インタビュアー】石川祐策、御子柴孝晃西川雅哉、小保方貴之
【撮影等】小保方貴之

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はじめに
桐生お召しから龍村織物専属デザイナーへ
“柄”を生み出す演奏家
紋切り屋という仕事
21世紀最初の仕事として
現役で生きる教科書
繊維は永遠だと思っていますから
桐生で唯一の絹専門の染め屋
今もなお現役で筆を握る図案作家
2人の整経屋からみた現実と未来
高速化に対応して世界屈指の職人へ
桐生織物の職人たち
機械直しから紗織の名人へ
全盛期を支えたお召し織物の稼ぎ頭
経糸と共に繋いだ夫婦の絆
商品の価値を決める最終段階
桐生の織物産業を陰で支える
あの光景を再び。桐生で八丁撚糸機を動かした立役者
シンポジウム
職人が語る桐生お召しの系譜

ちょっと一息/コラム
お召しチャート
編集後記

 

当時の桐生を振り返る小堀さん。

寮生である学生達と小堀さんの間に新たな交流が生まれたようである。

取材に参加した学生達は小堀さんの「人間力」に魅せられたと語った。