桐生お召しに関わる職人たち
桐生お召しと職人の系譜
桐生市老人クラブ連合会/NPO法人桐生地域情報ネットワーク
桐生市在住 上岡健城氏/上岡氏の自宅にて
 上岡氏は、お召し専門の整理屋。整理とは、機屋でシボ取り(湯通し)されて縮んだ反物を湯のしで蒸気をあてながら必要な幅まで広げ、さらにその後、キメを整えるために叩いて味付けをして機屋ごとの風合いに仕上げるのが仕事だ。現在ではシボ取り作業も整理の仕事として行っている。
 一日100反ほどの反物が機屋で仕上がり、それらの湯のしを行ってきた。蒸気を当てながら反物を引き延ばすため、全盛期には、指先が固くなり、唐揚げを素手で挙げられるほどだったという。
 上岡さんは「お召し」の言葉が入った唯一の桐生織伝統工芸士にも認定されている。

整理屋/上岡健城氏 第1回インタビューより
 

――それではまず湯通しと湯のしについて教えてください。

上岡 湯通しというのはお湯を通して糊を落とし、撚りを寄せるものです。湯のしは寄せた撚りを必要な幅にまで広げることですね。

吉田 湯通しはいわゆるシボ取りとも言います。ものによっては湯通ししないと仕上がらない反物もあるんです。

上岡 そうですね。機屋さんから来た段階では、織り目がグニャグニャでまっすぐじゃないものもあるんですよ。そのままだと仕立てたりするときに大変なんで、うちで湯通しして整理し直すわけです。

――お湯の中に通すというのは、具体的にはどのようにするんですか?

上岡 では実際にシボ取りをやってみましょうか。(以下、実演しながら)

――これはプラスチック製ですよね?

上岡 はい。昔はタライ桶があったんですけど、今はプラスチックの桶でやっています。まず、ここにお湯を張って酢酸を入れます。

――なるほど酢酸を使っているんですね。

上岡 そうしたらこのように布をお湯に通すんです。
  …これでだいぶ縮んできたでしょう。この両端の重なった2枚がうまく合わないと、湯のしをしたときに幅が揃わないんです。そこで、このように手で引っ張ったりしながら合わせていくんですね。
  …だいぶ幅が寄ってきました。そしたら次に濯ぐわけです。そして水を切るんですが、今は洗濯機の脱水で行っています。その後干して完全に乾いてから湯のし整理に入るという手順です。

――もとの大きさと比べるとだいぶ縮みますね。3分の2ぐらいになっちゃうんですね。乾かした後というはどうなるんでしょう?これ以上縮まないものなんですか?

上岡 いえ、縮みますね。糸の撚りの強さが関係してくるんですよ。

――どのくらいで乾くんですか?

上岡 季節によって違いますが、今のように夏だと、天気がよければ3時間ぐらいで乾いちゃいますよ。

吉田 昔はね、この段階まで全部機屋でやっていまして、その後に干したものを持ってきて整理してもらっていたんです。

上岡 でも、もうほとんどの機屋はシボ取りしないでしょう。お召しの場合は特にね。だからみんなうちに来ちゃうんですよ。それでいっぱい干すために竿が必要で、こんなにたくさん天井にかかっているんです(笑)。

――本当だ、すごい数の竿ですね。今の桐生には、湯のし屋さんは何軒くらい残っているんでしょうか?

上岡 えーと、そうですね、あっても5軒くらいでしょうか。帯の整理屋さんというのもありますけど、それはそれで別ですからね。

――そうすると上岡さんのところは着尺専門ですか?

上岡 ええ、ほとんどお召し専門ですね。

――反物によって、これは湯のしだけで十分だとか、これは湯通しだけで良いとか、そういう違いはあるんですか?

上岡 ありますが、一応どっちもやります。


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はじめに
桐生お召しから龍村織物専属デザイナーへ
“柄”を生み出す演奏家
桐生で唯一の絹専門の染め屋
今もなお現役で筆を握る図案作家
2人の整経屋からみた現実と未来
高速化に対応して世界屈指の職人へ
桐生織物の職人たち
機械直しから紗織の名人へ
全盛期を支えたお召し織物の稼ぎ頭
経糸と共に繋いだ夫婦の絆
商品の価値を決める最終段階
緯糸の糊を取るシボ取り
蒸気で引き伸ばす湯のし
湯のしの実演を見ながら
手に残る勲章
全盛期の休日
冬物と夏物の違い
職人同士の繋がり
結婚生活と仕事
整理屋として残った理由
現在の絹糸
懐かしい着物姿
もう一度着物を身近に
桐生の織物産業を陰で支える
あの光景を再び。桐生で八丁撚糸機を動かした立役者
シンポジウム
職人が語る桐生お召しの系譜

ちょっと一息/コラム
お召しチャート
編集後記

 

シボ取りの実演。桶にお湯を張る、黒いホースはボイラーからのお湯。

適温は約40°。その中に酢酸を入れて準備完了。

まずは、全体を浸しながら、少しずつ送ってゆく。