――健城っていうお名前、こういう字を書かれるんですね。かっこいいなあ。
上岡 これねえ、名前負けするってのは考えなかったんだろうかね(笑)。要は姓が上岡でしょ。だから岡の上に城を建てるっていう意味なんだいね。
原澤 城を建てるかあ。すばらしいお名前ですね。
――名前負けなんてしてないですよ。前回のインタビュー資料を読んで、さっきの指のお話とか、びっくりしましてね。それで……ちょっと手を見せてもらえればな〜と。
上岡 良いですよ(笑)。
――(上岡さんの手を触りながら)なんかすごい、大きいですね。
奥さん 今はもう、お召しの仕事をあんまりしてないし、ほとんど機械でやってるからね。昔はもっと指が内側に曲がっちゃってて、変形してましたよ。
――じゃあ、全盛期の頃はもっと。
奥さん こんなもんじゃなかったですよ。先の方が膨らんで、おだんごみたいな形になってね。
上岡 それこそ、唐揚げも平気だったって頃ですよ(笑)。今ではその皮も全部取れてきたけど。
――それと、胸板がすごく逞しいですね。伸ばすときに足と胸の力を使うからですか?
上岡 そうですね。そこに力が入ります。あくまでも指は抑えている程度ですし。
奥さん 若い頃はもっと太っていて、大きな体だったんですよ。病気になったりで、お医者さんから痩せてくださいって言われ続けたもんだから、これだけになったんね。
――すごい、ボディビルダーみたいだ。確かに毎日鍛えているのと同じですもんね(笑)。そうやってこの作業に慣れて、使いこなせるまでには何年くらいかかりましたか?
上岡 それほどかかるもんでもないけど、反物の耳を揃えるのが難しいね。指で抑えて膝をうまく使ってやるんですよ。
奥さん そう。やっぱりそこが一番大変で辛いところだね。要するに丸めた時に反物の端が平にならないんですよ。特にお召しの場合は、機屋さんから届いた時点では大概クシュクシュになってて、それをこの段階にまでもってくるんだから、きれいにできるようになるには年月がかかりますよ。呉服屋に持っていって耳が揃ってないと、見た目が悪いからって不良品になっちゃうし、半端な仕事じゃ意味ないですからね。5年くらいは必要なんじゃないかしら。 |