上岡 うちでやっているものは、ほとんどお召しでね。確かにやっているところを見てもらった方が、分かりやすいかもしれないですね。
原澤 扱っているのは、お召しだけなんですか?
奥さん いいえ。昔は嫌っていうほどあったのに、今じゃあんまりお召しの仕事はないんでね。着物に関するものだったら、しぼりからなにから何でもやりますよ。
――(作業場にて)この織物、随分長いですね。
奥さん お召しはね、機屋さんから預かった織物を、まず湯通しって言って糊抜きしてから、湯のしってのをして、幅を揃えるんですよ。
上岡 糊抜きするには、だいたい水からやってくんですよ。
――じゃあ、そんな熱いお湯は使わないんですね。お湯の温度って何度くらいで作業するんですか?
上岡 最終的には40度くらいだね。その温度で寄せてシボを平らにしてくんですよ。
――酢酸は、どの段階で入れるんですか?
上岡 酢酸入れるんはね、色染めをやる時。温度によって糸から色が出てきちゃうから、特に白なんかだと他の色が移りやすくて混ざっちゃうと大変でしょう。それで酢酸入れて色を留めるんだね。
――なるほど、色落ちを防ぐためなんですね。(湯のし実演を見て)わあ、すごい蒸気。息がぴったりですね。
原澤 重労働ですね。
上岡 そうですね。だから昔は2台あって、5人ですか若い人がいたんだけど、みんなこの熱さに耐えらんなくてね。
――やっぱりそうなんですか。すごく熱そうですもんね。
上岡 このツバを引っ張ってシボを取るんです。幅が戻っていくでしょ?
――ほんとだ。3分の2くらいだったのがだんだん戻っていきますね。
原澤 両方で間合いを取ってやっているという感じですね。
上岡姉 そう。あんまり速く回しちゃっても駄目だし。
上岡 この熱さを乗り越えられれば良いんですけどね。だんだん手が火ぶくれてきて、亀の甲羅みたいになってきますから。
――揚げ立ての唐揚げを、手で持ち上げられたっていうお話聞きました。
上岡 そうそう(笑)。でも今は前ほど仕事が無いから。八丁撚糸の織物も少ないしね。
――やっぱり最初は、この熱さに耐えられなかったですか?
上岡 それはなかったね。というのは親がやってたから、ずっとこの仕事を見て育ってきてるでしょう。だから生まれながらにして、自分もいずれやるんだろうなって、そういう感覚があったんだと思います。でもやっぱり、よそから来た若い衆には耐えられなくてね。
――これは何回くらい繰り返すんですか?
上岡 3回はやります。そうじゃないと幅がね。
――(目で合図して逆回しする様子を見て)息がぴったり合ってる。
上岡 徐々に徐々に回していかないと、ある部分だけが縮んだままになっちゃうからね(実演終了)。
原澤 伝統工芸士の資格はさっきの技術で取られたんですか?
上岡 ええ、そうですよ。
――湯のしだと、伝統工芸士の方は何人くらいいるんですか?
上岡 今はね、整理に関しては2人ですかね。
原澤 伝統工芸士にはいつ頃なられたんですか?
上岡 う〜んとね、何年だったかな。
奥さん もう結構経つよね。そこに何年って書いてある?…61年か。
上岡 全国で1番若い内に貰ったんだよね。(名簿を出して)これに載ってるんですけどね。「お召し」って入っているのは私だけ。
――じゃあ、仕事をやり始めて20年以上経ってから取ったんですね。
上岡 そうですね。始めた当時にそういう制度はなかったし。
――これだ、桐生織りってある。
原澤 いやあ、大したもんですね。20年も経ってからね〜。
上岡 いやいやいや(照)。
奥さん 結局、この仕事に携わったのが早かったからね。 |