桐生お召しに関わる職人たち
桐生お召しと職人の系譜
桐生市老人クラブ連合会/NPO法人桐生地域情報ネットワーク
桐生市在住 石川仙祥氏/石川氏の自宅にて
 第2回目の橋本氏へのインタビューに同行頂いた石川仙祥氏は、今でも筆を握る現役の図案作家である。2003年9月に桐生地場産業振興センター開催されたイベントでも着物図案の提供を頂いた。
 銘仙の図案作家としてこの世界に入り、その後、お召しの図案を手がけ、現在は、着物の図案だけではなく、様々な衣服、布地、襖、暖簾など、氏の言葉を借りれば「何にでも描く」というスタンスで仕事を続けられている。
 現役として今でも筆を握る石川氏にデビュー当時から現在までのお話を伺った。
 なお、石川さんは一貫して図案のみを描いていた職人であるため、ここではその呼称「図案作家」と表記している。

桐生市老人クラブ連合会/石川仙祥氏インタビューより

石川 ここが独立した当初の部屋なんですよ。当時の机がそのまんま。この机はもう50年は経つね。昔はここで正座して仕事していたから、膝もふくらはぎもぺちゃんこになっちゃってね。だから今は奥で立って仕事してるよ。

――すごいですね。本がいっぱい。

石川 この間、軽トラック2台分処分したよ。それでもまだ廊下や物置にも入っているし。息子が向こうにいるんだけど、もう本の中で生活してるって感じだね。身の周り全部本だから座ったままでも取れちゃうぐらい。当時からそうだったけれど、見るとつい買っちゃうからねぇ…。実は昨日も買ってきたばかり(笑)。

――どういう種類の本が多いですか?

石川 やっぱり美術関係だね。買うものは。

――それは、図柄の本ですか?

石川 今は仕事でというよりも好きで買っちゃう。

――外国の本とかもありますね。

石川 息子が私以上に買うからね。すごいですよ。

――石川さんの図案は、本に出ていないんですか?

石川 出てますよ。それは『全日本服飾図案競技大会図録』です。

――(本を見ながら)入賞された時のものですか?

石川 そうそう。その本はほとんど入賞したやつだよ。桐生の森秀さんが買ってくれた図案も、そこに入ってるんじゃないかな。ああ、これなんかそうだね、昔の図案だ。

――これ、何で描いてるんですか?(本の写真を見ながら)

石川 ん?普通の絵の具だよ。顔料だね。絵の具を全部溶いてから始めます。同じような感覚で縞にしたものが全国大会で入選してますよ。この本棚かな。
(一冊の本を取り出し)縞の柄はどれかな。…うんと古いやつなんだよ。

――桐生賞っていうのは?

石川 例えば桐生とか秩父とか、各産地別に賞をくれるわけ。年に2回上野の美術館で全国大会をやるんだけど、色んな産地からみんなが団体バスで集まってくるんだよ。図案はだいたい5000点くらい出品される。
 これが、さっき話した縞の類だね。こんなようなものを、全国大会に出したことがある。
 この絞り風のはね、着物の上に着る「道行」いっていうのになる。縦縞の柄でね、今の図案にそっくりなのがある。この縞だ。これは自分で言うのもおかしいけど、2枚とも良くできた(笑)。これは出品する前から、見に来た人みんなが「絶対入賞するよ」って言ってくれた。

――同じ時に2〜3つ入賞していますね。

石川 そういう時もあるん。
 こういうぼかしは、金網とブラシで全てやってたんだよ。今はコンプレッサー、あの小さいハンドピースっていうので、ほとんど仕事しているけどね。これなんか、ほんと自分で誉めちゃうよ(笑)。今見ても良いなって思う。

――これは全部着物になるんですか?

石川 そう。これは全部着物の図案。(何枚か図案を出して)これはこの前、地場産の時に出品したやつかな。全国大会の時はこうやって台紙に貼るんだよ。
 (たくさんの図案が出る)ああ、これは結構昔の図案だな。今ここに残ってるっていうことは、要は良いもんじゃなかったってことなんだけどさ(笑)。
 (いくつかのお召しを指し示して)これが縫い取りお召し。こっちもお召しなんだけど、桐彩お召しっていうやつだね。これみたく光っているものは、みんな描きながら付けていくんですよ。これと似たような反物が9月に開催した地場産センターでのイベントに出品してあったよね。
 良くできたものだけ取っとおいて、後はみんな燃やしちゃいました。半日かかったぐらいだから、随分燃やしたもんだよ。桐彩お召しって、こういう字を書くんですよね。これは出品しなかった作品かな。
 これなんか、さっき言ったハンドピースで描いたやつ。黒地のお召しになるんだけどね。

――これ何日くらいで仕上げるんですか?

石川 1日に5枚くらい描くよ。

――全部一人でなさるんですか?

石川 うん。一人で。

――お弟子さんみたいな方は?

石川 いや、居ないね。もう一人で夜中まで描くんだよ。

――葉や花は、本などを参考にするんですか?

石川 ある程度、自分の感覚だね。勉強するの。
 また今度来たら見せてあげるよ。八王子の方の仕事をしていた時の図案は、沢山残ってるんだ。八王子やら十日町だの、要するに織物の産地はほとんどやってるから。

――これはどうやって描いたんですか?(小紋の四角い連続模様を見て。)

石川 型紙を上手く利用したりするよ。(別の部分を指して)こういうのは全部手で描いたんだけどね。

――鉛筆で下描きもちゃんと描いてありますね。

石川 まあ、だいたいはね。この白い輪っかは型で、この辺の波線模様は手で描きました。手描きの方が速いんだよね。

――手描きでも1日に5枚もできるんですか?

石川 描けますよ。ちゃんと構図さえ取れればね。
そのかわり、同じ色を使う場合は、1色だけを先に全部塗ったりしてね。

――これを織物にしちゃう技術ってすごいですよね。

石川 そうだね、この図案を元に星屋(星図を描く職人)さんが、これを方眼紙に描いて紋紙にするんだよ。
 絵具は今も物置にしまってあるけど、全部手作りだったね。当時は練ったものが売ってなくて顔料だったから、それを皿に溶いてパレットナイフで練って、何十色と作っていた。
 今これを描いてと言われても、描けないね。ここまでの馬力っていうか根性がないね。


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はじめに
桐生お召しから龍村織物専属デザイナーへ
“柄”を生み出す演奏家
桐生で唯一の絹専門の染め屋
今もなお現役で筆を握る図案作家
銘仙からお召しの図案作家に
本当に当時は面白かった
現役の描き手として
桐生の歴史、記憶と記録
現役でいたい。
2人の整経屋からみた現実と未来
高速化に対応して世界屈指の職人へ
桐生織物の職人たち
機械直しから紗織の名人へ
全盛期を支えたお召し織物の稼ぎ頭
経糸と共に繋いだ夫婦の絆
商品の価値を決める最終段階
桐生の織物産業を陰で支える
あの光景を再び。桐生で八丁撚糸機を動かした立役者
シンポジウム
職人が語る桐生お召しの系譜

ちょっと一息/コラム
お召しチャート
編集後記

 

この場所が図案作家としての原点。周囲には資料がびっしりと詰まった本棚が並ぶ。

写真上)昭和40年秋の桐生賞の作品。東京の問屋横倉商店が入札し、森秀織物で織られていた。写真下)昭和43年秋の東京都経済局長賞に輝いた作品である。

昭和45年秋の桐生賞の作品。

学生達も当時のことを懐かしみながら話す石川さんの言葉に聞き入った。

拝見した図案そのものに、最盛期の勢いのようなものが感じられた。