石川 ここが独立した当初の部屋なんですよ。当時の机がそのまんま。この机はもう50年は経つね。昔はここで正座して仕事していたから、膝もふくらはぎもぺちゃんこになっちゃってね。だから今は奥で立って仕事してるよ。
――すごいですね。本がいっぱい。
石川 この間、軽トラック2台分処分したよ。それでもまだ廊下や物置にも入っているし。息子が向こうにいるんだけど、もう本の中で生活してるって感じだね。身の周り全部本だから座ったままでも取れちゃうぐらい。当時からそうだったけれど、見るとつい買っちゃうからねぇ…。実は昨日も買ってきたばかり(笑)。
――どういう種類の本が多いですか?
石川 やっぱり美術関係だね。買うものは。
――それは、図柄の本ですか?
石川 今は仕事でというよりも好きで買っちゃう。
――外国の本とかもありますね。
石川 息子が私以上に買うからね。すごいですよ。
――石川さんの図案は、本に出ていないんですか?
石川 出てますよ。それは『全日本服飾図案競技大会図録』です。
――(本を見ながら)入賞された時のものですか?
石川 そうそう。その本はほとんど入賞したやつだよ。桐生の森秀さんが買ってくれた図案も、そこに入ってるんじゃないかな。ああ、これなんかそうだね、昔の図案だ。
――これ、何で描いてるんですか?(本の写真を見ながら)
石川 ん?普通の絵の具だよ。顔料だね。絵の具を全部溶いてから始めます。同じような感覚で縞にしたものが全国大会で入選してますよ。この本棚かな。
(一冊の本を取り出し)縞の柄はどれかな。…うんと古いやつなんだよ。
――桐生賞っていうのは?
石川 例えば桐生とか秩父とか、各産地別に賞をくれるわけ。年に2回上野の美術館で全国大会をやるんだけど、色んな産地からみんなが団体バスで集まってくるんだよ。図案はだいたい5000点くらい出品される。
これが、さっき話した縞の類だね。こんなようなものを、全国大会に出したことがある。
この絞り風のはね、着物の上に着る「道行」いっていうのになる。縦縞の柄でね、今の図案にそっくりなのがある。この縞だ。これは自分で言うのもおかしいけど、2枚とも良くできた(笑)。これは出品する前から、見に来た人みんなが「絶対入賞するよ」って言ってくれた。
――同じ時に2〜3つ入賞していますね。
石川 そういう時もあるん。
こういうぼかしは、金網とブラシで全てやってたんだよ。今はコンプレッサー、あの小さいハンドピースっていうので、ほとんど仕事しているけどね。これなんか、ほんと自分で誉めちゃうよ(笑)。今見ても良いなって思う。
――これは全部着物になるんですか?
石川 そう。これは全部着物の図案。(何枚か図案を出して)これはこの前、地場産の時に出品したやつかな。全国大会の時はこうやって台紙に貼るんだよ。
(たくさんの図案が出る)ああ、これは結構昔の図案だな。今ここに残ってるっていうことは、要は良いもんじゃなかったってことなんだけどさ(笑)。
(いくつかのお召しを指し示して)これが縫い取りお召し。こっちもお召しなんだけど、桐彩お召しっていうやつだね。これみたく光っているものは、みんな描きながら付けていくんですよ。これと似たような反物が9月に開催した地場産センターでのイベントに出品してあったよね。
良くできたものだけ取っとおいて、後はみんな燃やしちゃいました。半日かかったぐらいだから、随分燃やしたもんだよ。桐彩お召しって、こういう字を書くんですよね。これは出品しなかった作品かな。
これなんか、さっき言ったハンドピースで描いたやつ。黒地のお召しになるんだけどね。
――これ何日くらいで仕上げるんですか?
石川 1日に5枚くらい描くよ。
――全部一人でなさるんですか?
石川 うん。一人で。
――お弟子さんみたいな方は?
石川 いや、居ないね。もう一人で夜中まで描くんだよ。
――葉や花は、本などを参考にするんですか?
石川 ある程度、自分の感覚だね。勉強するの。
また今度来たら見せてあげるよ。八王子の方の仕事をしていた時の図案は、沢山残ってるんだ。八王子やら十日町だの、要するに織物の産地はほとんどやってるから。
――これはどうやって描いたんですか?(小紋の四角い連続模様を見て。)
石川 型紙を上手く利用したりするよ。(別の部分を指して)こういうのは全部手で描いたんだけどね。
――鉛筆で下描きもちゃんと描いてありますね。
石川 まあ、だいたいはね。この白い輪っかは型で、この辺の波線模様は手で描きました。手描きの方が速いんだよね。
――手描きでも1日に5枚もできるんですか?
石川 描けますよ。ちゃんと構図さえ取れればね。
そのかわり、同じ色を使う場合は、1色だけを先に全部塗ったりしてね。
――これを織物にしちゃう技術ってすごいですよね。
石川 そうだね、この図案を元に星屋(星図を描く職人)さんが、これを方眼紙に描いて紋紙にするんだよ。
絵具は今も物置にしまってあるけど、全部手作りだったね。当時は練ったものが売ってなくて顔料だったから、それを皿に溶いてパレットナイフで練って、何十色と作っていた。
今これを描いてと言われても、描けないね。ここまでの馬力っていうか根性がないね。 |