桐生お召しに関わる職人たち
桐生お召しと職人の系譜
桐生市老人クラブ連合会/NPO法人桐生地域情報ネットワーク

――本棚に民話の本とかもありますけど、民話もヒントにするんですか?

石川 これは、私の知り合いの先生が発行したんで、一応義理じゃないけど買ったんさね。

――向こうにも全20巻の日本の民話の本がありますね。

石川 あれも前に買ったんだよね。あの本にはモデルがいっぱい。

――一寸法師とかもありますもんね。

石川 そうそう。暖簾とか作る時の良い参考になってる。ほら、あの暖簾も私が描いたんだから。
 これは、まだなんだよね。自分の好きなの描こうと思ってるんだけど、いつまで経っても描けない。構図も気に入らなくて、なかなか決まらない。
(掛かっている暖簾を指し)
 あっちは、ハッとした勢いで描けちゃった。あれ何回も洗濯してるんだよ。ここにあるのもアクリルだから洗濯して大丈夫。こういうのは熱処理の時にアイロンさえ掛ければいいの。今はもう便利なんさね。ただ染料って言うか顔料は、化学繊維だと色の付きが悪くて駄目。天然繊維の綿とか絹だと、そういうこともなくて良いけど。
 結局これは橋本さんのところみたいに、生地に完全に浸透させて染め付けるんじゃなくて、繊維の上から色を乗せちゃうだけ、ただ色をくっ付けるってことだから、洗うと落ちちゃうんです。ところがアクリル系を熱処理すると、溶けて浸透していくわけ。けど、化学繊維だと、ガラスの棒に染料が付いてるようなもんで、落ちやすいんだよね。こういう天然の繊維はたくさんの毛羽立ってるから、付きが違うんですよ。それで、さっき言ったテトロンのブラウスに描いた時は、いちいちクレームがついちゃってさ。ところがまた売れちゃったんだよね(笑)。

――売れたものにクレームがくると、面倒ですよね(笑)。

石川 本当に心配しましたよ。返品が来たらどうしようって。
 でも不思議なくらいよく売れた1番人気の絵って、なんだと思います?女の人がタバコ吸ってる絵。今じゃ売れないよね。
 タバコ吹かしてる絵が胸元にあるの。スッーっとこう煙を2、3本顔や頭の上に描いてさ。顔の輪郭だけを表現して、髪の毛は煙をカールさせてごまかしちゃった。だからうんと簡単なの。黒一色だもの。それがバカ売れですよ。売ってる人が、「何で売れるんでしょうね」って言ってたぐらいなんだから(笑)。
 はじめ見本会みたいな審査会っていうのをやった時には、女がタバコ吸ってるって事でクレームが付いたんだって。ところが、いざ店頭に出したらそれが1番の人気でしょ。織物とかこういうのは、本当にどういうものが売れるのかわかんない。一種の宝くじみたいなもんさね。

――ところで、机の上の筆は全部使ってるんですか?

石川 うん。今、使っているのは、ほとんど別室に持っていってるけど、描くのに使えなくなった筆も別のことに利用できるんですよ。

――模様などにですか?

石川 うん。毛が少なくなったらなったで、それなりの使い方がある。かすらせた感じを表現する時などにね。

――型をご自分で彫ったり、1つの道具でも様々な使い方をして、また違った雰囲気を作り出せるなんて、すごいことだな。だからきっと、幅広い種類の絵が描けるんですね。

石川 今ね、また一軒違うお得意さんの仕事にかかろうかなって思ってる。ちょうど資料を取り寄せたところだよ。
 まだまだ現役でいたい。そういう気概があるから、できるんですよ。

後藤美希(群馬大学工学部3年)
 今回の取材で出会えた方は、今も現役で図案を描いていらっしゃる石川さんでした。まず、石川さんのお部屋に入って驚いたのは本の多さです。棚や床、押し入れの中にまでありました。それでも、随分の量を処分したそうです。
 そして、色々なお話をしていく中で石川さんが描いたたくさんの図案を見せてもらいました。どれも古い物でしたが、鮮やかな色は変わってなくどれも美しかったです。1つ1つの花や草の絵はとても繊細に描かれていて自分の感覚で描いたなんて思えないほどすばらしかったです。また、着物の図案だけでなく、木や布そして屏風などにも絵を描いているそうです。どれに描かれた絵を見ても躍動感があり、ただただ見惚れてしまいました。
 今回石川さんとお話をしていて、本当に絵を描くのが好きなんだなと伝わってきました。好きなことをとことん追求して独自の物を作り上げていく。また、50年も続けて今も尚新しい自分の絵を探している。とてもかっこいいと思いました。石川さんはとても楽しそうに話してくれて、聞いている私まで次々にでてくるすばらし物に感動し、貴重な時間を過ごさせてもらえました。ありがとうございました。
◆インタビュー取材データ◆
【日時】2003年11月7日(金曜日)16:00〜18:00
【場所】石川氏宅
【インタビュアー】後藤美希、中村愛子、小保方貴之
【撮影等】小保方貴之

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はじめに
桐生お召しから龍村織物専属デザイナーへ
“柄”を生み出す演奏家
桐生で唯一の絹専門の染め屋
今もなお現役で筆を握る図案作家
銘仙からお召しの図案作家に
本当に当時は面白かった
現役の描き手として
桐生の歴史、記憶と記録
現役でいたい。
2人の整経屋からみた現実と未来
高速化に対応して世界屈指の職人へ
桐生織物の職人たち
機械直しから紗織の名人へ
全盛期を支えたお召し織物の稼ぎ頭
経糸と共に繋いだ夫婦の絆
商品の価値を決める最終段階
桐生の織物産業を陰で支える
あの光景を再び。桐生で八丁撚糸機を動かした立役者
シンポジウム
職人が語る桐生お召しの系譜

ちょっと一息/コラム
お召しチャート
編集後記

 

次から次へと出てくる話題に徐々に身を乗り出して話を聞く学生達。

現在の工房の様子。力強い作品がこの工房から生み出されている。