田中 あまり知識が豊富でないので、おそらくわからないこともあるかもしれません。まぁ整経だけは確かにやってますから、仕事に関しては何でも聞いてください。
――前回の『撚糸用水車の記録』で、緯糸の話はある程度わかってきましたが、経糸に関しては、どうできて、どのように織機に掛けられるのかを教えて頂きたいんです。
田中 そういったことだったら説明よりも工場へ入って見てもらった方がわかり易いと思います。そうしましたら工場へ行きましょうか。実際に見て頂くのが一番いいんですよ。説明もしやすいですしね。
(工場へ移動する)
ここが工場になります。この糸を見てください。これは人絹ですね。人造絹糸、人絹です。これが120番の「羽」、「羽」っていうのは「双」でなくて1本の糸です。これをこの菅に通して、これが動くんですね。ちょっと動かしてみましょう。
…こういう風に糸繰りするんですね。
――糸が切れることはないんですか?
田中 ありますよ。そうすると止まっちゃうんですよ。そしたら糸の先を見つけて繋ぐんですよ。繋ぐにしても坊主結びで繋ぐんじゃだめだから、「割り結び」で繋ぐんですね。機屋さんで機を織るときでも坊主結びじゃなくて「割り結び」ですよね。坊主結びだと引っ掛かっちゃうんですね。
――枠の軸に掛かっているこの重りはどういう役目があるんですか?
田中 重りがないと糸を掛けた枠が早く回りすぎちゃうんですよ。糸によって適当な重さってのもあってね、これでうまい具合に調節するわけです。
(整経機の前に移動する)これで繰った糸を整経するわけです。機械の反対側にありますけど、あれは帯のタマですね。
…それで、こういう指示書が機屋さんから来るんです。指示書には、両端はベージュが208本、ここは紺が32本、鉄色が48本、それでまた紺が304本で、それを中心にしてタマを作るわけですね。
…それでこれが幅になるわけです。これを紋玉っていって紋になるんですね。これが面倒で本数がみんな違うんで、年中そろばんで計算してなきゃいけないから大変なんですよ。
――同じように織っても糸を換えるだけで柄が変わるわけですか?
田中 そうですね。経糸が換わると色んな柄の帯が出来るわけですね。
そうしましたら実際に機械を動かして整経してみましょうか。
この部分を取り替えると色が変わるわけですね。ここに繰った糸を付けてこちらに引っ張ってくるわけです。これは綾取り筬といって、交互に1本ずつ上下に別れた綾になるんですね。糸があちこち遊ばないわけ。糸が機屋さんにいってもそのまま織れるようになるわけです。
今はいらない糸でやってみますね。機屋さんの指示書に従って、糸を付けて整経するわけです。それで各幅も指定されるわけですね。
で、今度は長さです。長さもまた指示されるわけです。これも1つの穴に何本入るかってのを自分で計算して、それでこのくらい入れればこのくらいの幅に仕上がるってのを計算してやるわけです。
――これを機屋さんへ持っていって繋ぐわけですか。
田中 そうですね。こんなのは少なくって1200〜1300本なんです。それを全部繋いで、また織りはじめるわけです。
――今使った道具はなんていうんですか?
田中 これは、何て言ったかな。…これは「筬抜き」っていったかな。筬から糸を抜くから筬抜き。これを使って糸を上に下にと動かして綾を作っていくんですね。
長さはこの大きな輪の端の部分を使って測ります。例えば20メートル整経したかったら、目盛りを20に合わせます。これがタイマーの役割を果たすんですね。
…これで20メートルです。これを何回か繰り返すわけです。指示書の長さに応じてね。まぁ整経はこんなところです。
――この機械はもう随分長く使ってるんですか?
田中 ええ、もう長いですよ。整経機も糸繰り機も。
――こういう機械や材料も今作ってくれるところもないでしょうねぇ。
田中 桐生倶楽部の近くに太縄機料っていう、機屋さんの材料や整経屋の材料を専門に売る店があるんですよ。だけど注文書がないと、今はもう需要がないからこういった道具を作る職人も作らないんですよ。そういう状態です。
こういうボビンも仲間が辞めるときにもらったり、安く譲ってもらったりしてここにあるわけです。
この糸繰りを止めるときも、普通に止めると慣性が働いて糸が緩んじゃうんですよ。ですから両手を使って糸が回っている流れを掴んで止めるんですね。
では戻りましょうか。
やっぱり百聞は一見にしかずですね。見たほうのが説明しやすい。
(工場を出る) |