桐生お召しに関わる職人たち
桐生お召しと職人の系譜
桐生市老人クラブ連合会/NPO法人桐生地域情報ネットワーク
桐生市在住
田中光治氏
田中氏の自宅にて

 
 
桐生市在住
渡辺俊氏
渡辺氏の自宅にて
 田中氏と渡辺氏は、経糸を「タマ」に仕上げる整経屋。戦後はお召しを、現在では帯やネクタイなどの経糸を整経している。
 田中氏の工場には、古いタイプの機械が入っており、経糸を管から百本程引き出し、それらを一ヶ所に集めてきれいな綾を作りながら巻取っていた。取材陣は糸を巻きはじめる準備段階で見せた、糸をくわえて切る姿に見とれてしまった。
 渡辺氏は絹専門の整経屋として活躍中で桐生市内のお寺の天井画を製作する際にも経糸の整経を担当した。2人の取材を通して、織物産業の現実と未来の姿を垣間みることができた。

整経屋/田中光治氏 インタビューより

田中 あまり知識が豊富でないので、おそらくわからないこともあるかもしれません。まぁ整経だけは確かにやってますから、仕事に関しては何でも聞いてください。

――前回の『撚糸用水車の記録』で、緯糸の話はある程度わかってきましたが、経糸に関しては、どうできて、どのように織機に掛けられるのかを教えて頂きたいんです。

田中 そういったことだったら説明よりも工場へ入って見てもらった方がわかり易いと思います。そうしましたら工場へ行きましょうか。実際に見て頂くのが一番いいんですよ。説明もしやすいですしね。
(工場へ移動する)
 ここが工場になります。この糸を見てください。これは人絹ですね。人造絹糸、人絹です。これが120番の「羽」、「羽」っていうのは「双」でなくて1本の糸です。これをこの菅に通して、これが動くんですね。ちょっと動かしてみましょう。
  …こういう風に糸繰りするんですね。

――糸が切れることはないんですか?

田中 ありますよ。そうすると止まっちゃうんですよ。そしたら糸の先を見つけて繋ぐんですよ。繋ぐにしても坊主結びで繋ぐんじゃだめだから、「割り結び」で繋ぐんですね。機屋さんで機を織るときでも坊主結びじゃなくて「割り結び」ですよね。坊主結びだと引っ掛かっちゃうんですね。

――枠の軸に掛かっているこの重りはどういう役目があるんですか?

田中 重りがないと糸を掛けた枠が早く回りすぎちゃうんですよ。糸によって適当な重さってのもあってね、これでうまい具合に調節するわけです。
 (整経機の前に移動する)これで繰った糸を整経するわけです。機械の反対側にありますけど、あれは帯のタマですね。
  …それで、こういう指示書が機屋さんから来るんです。指示書には、両端はベージュが208本、ここは紺が32本、鉄色が48本、それでまた紺が304本で、それを中心にしてタマを作るわけですね。
  …それでこれが幅になるわけです。これを紋玉っていって紋になるんですね。これが面倒で本数がみんな違うんで、年中そろばんで計算してなきゃいけないから大変なんですよ。

――同じように織っても糸を換えるだけで柄が変わるわけですか?

田中 そうですね。経糸が換わると色んな柄の帯が出来るわけですね。
 そうしましたら実際に機械を動かして整経してみましょうか。
 この部分を取り替えると色が変わるわけですね。ここに繰った糸を付けてこちらに引っ張ってくるわけです。これは綾取り筬といって、交互に1本ずつ上下に別れた綾になるんですね。糸があちこち遊ばないわけ。糸が機屋さんにいってもそのまま織れるようになるわけです。
 今はいらない糸でやってみますね。機屋さんの指示書に従って、糸を付けて整経するわけです。それで各幅も指定されるわけですね。
 で、今度は長さです。長さもまた指示されるわけです。これも1つの穴に何本入るかってのを自分で計算して、それでこのくらい入れればこのくらいの幅に仕上がるってのを計算してやるわけです。

――これを機屋さんへ持っていって繋ぐわけですか。

田中 そうですね。こんなのは少なくって1200〜1300本なんです。それを全部繋いで、また織りはじめるわけです。

――今使った道具はなんていうんですか?

田中 これは、何て言ったかな。…これは「筬抜き」っていったかな。筬から糸を抜くから筬抜き。これを使って糸を上に下にと動かして綾を作っていくんですね。
 長さはこの大きな輪の端の部分を使って測ります。例えば20メートル整経したかったら、目盛りを20に合わせます。これがタイマーの役割を果たすんですね。
  …これで20メートルです。これを何回か繰り返すわけです。指示書の長さに応じてね。まぁ整経はこんなところです。

――この機械はもう随分長く使ってるんですか?

田中 ええ、もう長いですよ。整経機も糸繰り機も。

――こういう機械や材料も今作ってくれるところもないでしょうねぇ。

田中 桐生倶楽部の近くに太縄機料っていう、機屋さんの材料や整経屋の材料を専門に売る店があるんですよ。だけど注文書がないと、今はもう需要がないからこういった道具を作る職人も作らないんですよ。そういう状態です。
 こういうボビンも仲間が辞めるときにもらったり、安く譲ってもらったりしてここにあるわけです。
 この糸繰りを止めるときも、普通に止めると慣性が働いて糸が緩んじゃうんですよ。ですから両手を使って糸が回っている流れを掴んで止めるんですね。
 では戻りましょうか。
 やっぱり百聞は一見にしかずですね。見たほうのが説明しやすい。
(工場を出る)


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はじめに
桐生お召しから龍村織物専属デザイナーへ
“柄”を生み出す演奏家
桐生で唯一の絹専門の染め屋
今もなお現役で筆を握る図案作家
2人の整経屋からみた現実と未来
◆整経屋/田中光治氏
整経屋の仕事
解散した桐生織物整経協同組合
整経屋の昔と今、そして未来
◆整経屋/渡辺俊氏
整経屋という仕事
整経屋としての50年
整経屋今昔物語
織物産業の未来は
高速化に対応して世界屈指の職人へ
桐生織物の職人たち
機械直しから紗織の名人へ
全盛期を支えたお召し織物の稼ぎ頭
経糸と共に繋いだ夫婦の絆
商品の価値を決める最終段階
桐生の織物産業を陰で支える
あの光景を再び。桐生で八丁撚糸機を動かした立役者
シンポジウム
職人が語る桐生お召しの系譜

ちょっと一息/コラム
お召しチャート
編集後記

 

この日取材した田中さん(右)はまさに職人という感じであった。

田中さんには工場内で次々にそれぞれの機械を動かして頂いた。

届いた糸にはまず管巻きが施される。

最終的には右下に写る引き揃えて巻取った経糸をタマに仕上げるのが整経の仕事。

管巻きされた糸が注文書通りに引き揃えられてゆく。

整経機に巻取った糸をサッとくわえて切る姿が印象的だった

こういう管などの道具も手に入りにくくなっている。