(糸繰りを示して)
渡辺 まずこれが糸ね。糸は染め屋さんで染められるわけね。この1スガで糸1本なんですよ。初めから終りまでね。これを今度はボビンに取るわけです。それが糸繰り、ワインディングっていうんですけどね。
(糸を示して)
この生糸は生のまま整経しちゃうんです。それで、織ってから練って色をつけるんです。この方が扱いづらいんですけどね。で、この糸を糸繰りして整経機へ持ってきて繋ぎます。これを1本ずつ機械に通していくと3日ぐらいかかるんですよね、だから前の整経が終わった糸に結びます。
――つまり、糸が全部終わっちゃった後に、また1本1本糸を通してゆくのが大変だから、糸がなくなる寸前で新しい糸を結んじゃうということですね。
渡辺 そうそう。それでね、整経機の方へに引っ張ってやるんです。結んだところは、整経する前に切り取ります。
それでね、注文の糸数がね、機屋さんによって、例えばこの経糸ですと「幅を80cmにして、長さを550m糸数は5000本でタマにする」って注文が来ると、その通りに整経します。
(設備を示して)
整経が終わると機械の反対側で、ブレーキをかけながら巻くわけです。で、巻取ったタマを整経機から外して機屋さんへ持っていって織機にかける。織機の糸と整経した糸とを1本ずつ繋いで織るんですよ。
整経はね、織物の準備行程の一つで経糸を整えるところなんです。経糸と緯糸がないと織物になんないですよね。レースやニットなんかは糸絡めれば経糸だけでもできます。けど、普通の織物っていうのは経糸を上下に分けて隙間を開けてやって、そこに緯糸を通すことによってできるわけですよね。
その上げ方によっていろいろ組織の名前があるわけです。例えば平織りであるとか、朱子であるとか、綾であるとか。組織の違いによって、生地の名前が変わってくる。
(設備を指して)
――これはなんて言うんですか?
渡辺 これはね、巻き箱って言うんですけどね、京都なんかでは男巻って言いますね。「男」に「巻く」って書いて男巻。桐生では巻き箱。ここにあるように金属で全部できてればビームですね。
これはね今やっている経糸なんだけど、ネクタイを4幅いっぺんに取っちゃうんです。それをビームで巻いちゃうんです。タンプルの端から端まで行きますけどね。つまりね、ネクタイを4幅同時に、4本分をいっぺんに織っちゃうわけですね。
ちょっと、巻き始めだけやってみましょうか。これは今整経が終わった段階です。これは織物によって千差万別ですね。糸数とか幅とか密度とか。
(実演しながら)
渡辺 それでね、整経っていうのはね。タンプルの同じ箇所でずっと巻取ってゆくと、端っこが崩れて駄目なんです。だから一回転するごとに右側に少しずつゆっくりと動かしてやるんです。それは巻取る糸の密度に合わせて動かすわけです。密度の高いものは早く、密度の低いものはゆっくりと送ってやるわけです。
そこにね、一回転で何ミリ送るっていう一覧表があるんですけどそれを見て決めるわけです。計算して送ってやらないと崩れてくんです。まっすぐ上に重ねてくと。
巻き取りの巻き始めは軸にテープで貼り付けてやるわけです。あるいは布がついてるものなんかは先端を縛ってやります。
(整経した糸に新聞紙を巻くのを見ながら)
――紙を挟むのは糸同士がからまないようにするためなんですか?
渡辺 これが糸が崩れてゆくのを防いでやるためなんです。まっすぐ巻取ってゆくでしょ?そうすると端っこの糸が崩れちゃう。それを防ぐために両側に紙を挟むんです。それで新聞紙をたくさん使うわけです。このローラーが左右に振れているから、糸はまっすぐに重なってゆかないんです。このローラー見ててください、左右に振れているでしょ?振らないのもあるんですけどね。
で、今困ってるのが最近は色刷りの新聞紙が多いんですよね。色刷りっていうのは非常に困るんです。そういうのは抜かして使っていく。
――糸に色ついちゃうんですね。
渡辺 ええ、白い糸なんかはね。一番困るのはスポーツ誌で、使うと写真の柄がそっくり出ちゃう。スポーツ誌はインクが悪いんです。一番いいのがやっぱり3大紙ですか。朝日、読売、毎日。(一同笑)絹糸はほとんど白い紙で巻きます。
(実演しながら)
渡辺 これはね、先に白いスミが塗ってありますけどこれは「これ以上先には織れませんよ」っていう印なんです。このスミが出たらこの先は3ヤードしかありませんよってこと。
――あー、織物屋さんがわかるように。
渡辺 洋反なんかは、50メートルずつで卸しているんですが、帯屋さんは8メートルとか、10メートルぐらいとかそういう短い注文ですから、途中に印を付けなくても最後に付けてやれば「ここから3ヤードあるから、あと1ヤード織って大丈夫だ」と機屋さんがわかるんだよね。
――この糸って結構ピーンと張ってますよね。
渡辺 このビームを手で動かしてみてください。全然動かないですから。
(動かそうとして)
――重いっ!
渡辺 ブレーキを掛けないときは手で簡単に回るんですよ。今はブレーキ掛けてる。糸数に合わせてブレーキの強度を変えてやるわけです。糸の張力を見て変えていくわけです。もうそれは勘ですね。
でね、この印が「あと9ヤード」って印。あと一本帯が織れる長さです。さっきのスミまであと9ヤードある。その目安なんです。そうすると帯が一本織れるっていうようにケースバイケースで目印をしてやるわけです。
(実演しながら)
渡辺 この経糸は総糸数が1400本。280本でちょうどで整経していますから5レピードで1400本あります。巻き取りが終わると一番最後にこのタマをはずして、機屋さんに持ってく。
――ちょっとやってみたい。
渡辺 あのね、手を巻き込むと骨折しますよ。間が悪いと亡くなる人もいるんです。もう桐生でも何人か死んでるんです。それだけ張力が強いんです。だって、1400本の糸が全然回らないんですよ。だからね、これが一万本になると私がこの上で飛び跳ねてもビクともしない。1400本でも人間の力では全然回らないですよ。
だからこれは危険なんですよ。気を付けてやらないとね。私なんかエプロン2、3回巻き込まれたことあります。スッと紐が取れたりボタンがち切れたりして。まあ死ぬような目にあったことはないですけど。でも骨折した人は何人も知っていますよ。骨が折れるんですからねぇ。やってみます?
――遠慮しときます(笑)。こんな細い糸が1400本も集まるとこれだけの強さを持つのか。
渡辺 これでもね、2本や3本ならすぐ切れますけど、絹糸を10本まとめたら引っ張ったくらいでは切れないですよ。このネクタイを4幅巻くとね、18186本で1タマになるんです。
これが整経って仕事なんです。要するに経糸の糸数と密度と長さに合わせて男巻で巻く仕事が整経。それをやらないと機が織れないんです。織機の準備段階。昔は大きな機屋さんにほとんど整経機があったんです。それが戦後、工場もある程度小さくなってきたんで自分のところで整経をしなくなったんです。現在でもあるところはあります。桐生ではアラ産業さんとか飯塚機業さんなんかは整経を自前でやってます。間に合わない仕事がごく一部外注に出るぐらいだね。それ以外の機屋さんでは整経の仕事はだいたい外注ですね。 |