桐生お召しに関わる職人たち
桐生お召しと職人の系譜
桐生市老人クラブ連合会/NPO法人桐生地域情報ネットワーク

佐藤 ちょっとビデオ見てみるか。まず京都の業者がやったやつからね。(以下映像を見ながら)これ京都の西陣。京都の建物は奥は長いんだけど入り口が狭いんだよ。だからウナギの寝床なんて言うよね。
  ……まずは手機だね。ジャカードと同じで柄の部分の経糸は上の命令で上がっていくんさ。錦織っていうのは、帯もそうだけど、緯糸で柄を出すんだよ。逆にゴブラン織りは経糸で柄を出してく。これは手機だから足で踏んで経糸に綾を作っているところだな。
  ……今映っているのが伏っていうもの。なぜこれが必要かというと、経糸がいっぺんにまとまって上がっちゃうと、緯糸が遊んじゃうでしょう。だからこの装置で6本のうち1本は強制的に落としてやるの。そうしないと組織にならないからね。
  ……これが前回話した錘でこっちがスプリングね。ゴム引きのものもあるん。ほら、架物から下がったハーネスの先にスプリングが付いているでしょう。これでジャカードが経糸を上げたときに、自分の力で下りてくるわけ。だからこっちを積極的といって、錘の目方のまんまに下りる矢金の場合を消極的っていうんだね。
  ……紗織りっていうのは知ってるかな?「しゃ」って、糸偏に少ないって書くの。3本につき1本の経糸をねじって、それを3本の核にしながら左右の経糸をくくって繰り返していくのが紗織り。

――じゃあ、生地も強いんですか?

佐藤 強いさぁ。そうだな、ネクタイが多いね。あとは服地。それから昔静岡であったんがブラジャーね。織り幅が1メートル50センチ、上がり幅が1メートルぐらいじゃなかったかな。ナイトクラブとかああいうところで使う、多少見えて多少見えないっていうような(一同笑)。

佐藤 糸もね、右に撚ったのと左に撚ったのがあるの。撚り方によってねじれが違ってくる。服地は左撚りの糸と右撚りの糸で織ってくんだよ。右ばっかりじゃ縄になっちゃうんだよね。例えば、漁業で使う網があるがね。あれも右と左の撚りを使わないと網にならないんだよ。
(ビデオ止めて説明)この糸をよく見てごらん。糸を垂直に持って見てみると、細かな繊維が左に上がってるだろう?

――これはどっちだ?

佐藤 それは右だ。左上がりの糸が右撚り。だから例えば、さっき言った女性の服地の場合、一方の撚り糸だけを使うと縄状になっちゃって、まとわりついちゃうんだな。
 これはフランス製の組み糸って言うんだけど、ハーネスを作るときに使うんだよ。まず糸にチューブを通して、こっちの黄色い糸と結ぶの。それで結び目のところにチューブをずらしてきて、ドライヤーで温めてチューブを縮めるん。結び目が他の糸と引っ掛からないようにこうするんだよ。
 このドライヤーはかなり強いよ。髪の毛なんてチリチリ焦げだよ。だから使ったら必ず冷風にして、冷ましてから止めるんね。ほら、ドライヤーの中が赤くなってきたろ?これをさっきのチューブのところに当てて縮ませるの。チューブは大体70℃ぐらいから溶け出すんだよね。それで糸の部分はちょっと弱めにしてやらないと糸自体が溶けちゃうから、そこは弱く他は強くして温める。これで仕上げだ。

――これ、1本1本なさってるんですか?

佐藤 全部並べてまとめてやっちゃうけどね。これで冷めれば出来上がり。
 それからもう1つはこの糸を使うんだけど、これをこういう風に上に持っていって引っ掛けるんだよ。それで、さっきと同じようにチューブで結び目を隠す。あとでビデオにも出てくるけど、今はだいたい機械でやってるね。特に外国ではこの方法が多いよ。

――さっきの糸は結んでましたよね? 

佐藤 最初の方法だと、とにかく時間がかかっちゃってね。でもこれを使えば随分と早くできる。まあ強く引っ張ったり、逆に向けると抜けちゃうけど、織機が動いている時にそういうことには起きないからね。
(以下映像を見ながら)
見ててごらん、今出てくるから。
 ……穴の空いた板に1本1本通すの。指示書があるんだけど、例えば架物だったら書いてある通りに割り付け間隔をとって、この中に収まるようにして吊る。
  ……これが架物を吊ったところ。このあと綾、つまり順番をとるわけ。
  ……次に経糸の位置を変えて、緯糸を打ち込むのに使う筬の順番を取っているんだな。おそらく使っている糸はシルクだろうね。
  ……これは伏といわれるやつ。さっき話したように、いっぺんに6本上がっちゃまずいから1本落ちろっていう仕組みね。
 フランスのゴブラン家がつくったゴブラン織りっていうのが、経糸で柄を出すから8色ぐらいあるんだよ。で、こういう錦織っていうのは緯糸で柄を出すわけ。経糸が表面に現れたり下に隠れたりすることで、模様が浮き出てくるんだよ。緯糸を、ある一定の間隔で経糸でもって押さえ込むんだが、この押さえ込んだ経糸は、表面には現れないんだよ。

――これは経糸を筬に通す作業ですね。 

佐藤 ビデオでは肉眼でやってるでしょう?おそらく爪で1つ1つ弾きながらパチパチってやってるよ。5本とか6本を一度に通すから楽だよ。これは大きい織機だからね。
 ジャカードの中には縦針と横針があって、紋紙に穴が開いているか開いていないかで、その針を操作して経糸を上下させてるんさね。けど今は電子ジャカードって言って、電磁石に電気を流したり切ったりして、その上げ下げを操作するんさ。磁石にくっつくと経糸が上がって、くっつかないと下がる仕組みなんだね。
  ……この織機はドイツのドルニエって織機でね。回転数が350回とか400回ぐらいだから遅いほうだよ。それで、その頃はまだカード(紋紙)を使っていたわけ。板の穴と穴の間は0.26cmで、これは国際的に決まっている。
  ……今の見本はジャカプリっていうもので紋がプリントしてあるんだよね。つまりジャカードとプリントの合作っいう意味。トビジャカって言ったらドビーとジャカードっていうこと。
  ……これは平成5年に大阪の展示会で一番だったんだよなあ。俺が作ったのだからよく見てて。回転数で言えば350回だろうけど、うちは他社が目板を1枚でやってるのを、2枚使って2段でやったんだ。
  ……これは間違いか何かを見つけてるところだな。糸に問題があったんだよ。何番が間違ってる、とかいうようにね。今はもうみんなコンピュータだからどうしようもないよ。全部手作業なのは俺のところだけだからね。
  ……これが紋紙の原版。今はフロッピーで、紙10万枚分ぐらい記憶しちゃうんだもんね。
 うちで撮ったビデオもあるんだよ。(以下その映像を見ながら)
  ……これは桐生の川内で織機とジャカードの展示会をしたときのもの。まだ紋紙を使う織機だね。

――結構音が大きいですよね。

佐藤 音は大きいな。さっきの外国製の織機と比べても、負けたもんじゃない。結構速いだろう?ベッドカバーを作ってるところだね。
  ……この織機特有なんだけどね、ハーネスがハスになってるんだよ。うちの織機には目板が1枚あってさ、さらにここにもう1枚あるんさ。目板を二重にすることで速くなるんだよね。1枚だけだとジャカードの上下の動きが、ハーネスの下の方にまで伝わってしまって、正しく動いてくれないことがあるんだけど、2枚にすれば1枚目から2枚目の目板に伝動がいったん逃げて、ハーネスの下までブレが伝わらないんだよね。だからヨーロッパのものより、俺が作ったほうが速くて良い織物ができると思うんだよ。
 ……これは川内行った時の一番速い織機。
 ……こっちは桐生で作った架物を、平成9年に大阪の展示会に出品した時のビデオ。
 ……これは500回ぐらいで、さっきのより速いんだよ。速いけどちゃんと緯糸が入っていってる。やっぱり目板は2枚ないと駄目だね。2枚あれば余分な動きがなくなるから、早く正確に織れる。なんて言っても『佐藤機拵研究所』だもん、色々研究してるんだよな。

――これだけ速いと、この速さに絶えうるものを作らないといけませんものね。

佐藤 うん。そういうものを我々が作らないとね。上からの命令をちゃんと下に伝えてやらなきゃいけない。

――速くても糸が切れてばっかりじゃ駄目ですもんね。

佐藤 だってこれ、経ては絹だよ。

――絹は弱いんですもんね。

佐藤 そう。大阪の展示会場では「他の国には負けないぞ」って気合い入れてさ。この織機は1分間に500回以上回転するんだぞ、経糸はシルクで2万本もあるんだぞって、全部手作業で頑張ったもんだよ。
 さっきのドルニエっていうやつは、織機が回らないから1分で350回転ぐらい。見た目には我々のとほぼ同じだけど、規模は問題にならないぐらい違うよね。要するに錘だとか厚さだとか角度だとか、それから目板だって1枚でダメなら2枚、2枚でダメなら3枚でやってみるとかね。考えて考えてそういうものを作ればいいんだよ。どこ見渡したって2枚でやってるのは俺しかいなかったもんな。
 ここに模型作ってみたんだけど、これは1つの線につき4本のハ−ネス、針金が付いているから、4つの柄が作れるってことなんだよ。平織りになるんだけど、1番と2番と3番と4番の繰り返しで紅白になって網目になる。要は同じ柄が4つ並ぶだけだけど、大体の柄ができれば思った構造もできるからね。これがジャカードってものだ。

――この模型は作るのにどのくらいかかったんですか?

佐藤 これはだいたい1日ぐらいでできるよ。

――(織機の模型をみて)すごい、ちゃんと動く。

佐藤 これ1本1本よく動くんだよ。そしてここんとこ見てみて。目板が2枚になっているだろ?だから揺れが少ないの。外国にも負けてないんだよ。2枚重ねて通しちゃって、下の板はそのままで上に板を入れるんだ。そうしないとハーネスが屈折するから、下の方にも揺れが伝動しちゃう。

――出来上がりを見れば、「板を1枚加える」ってシンプルなことですけどね。

佐藤 そう。それがなかなかみんな浮かばないんだよな。


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はじめに
桐生お召しから龍村織物専属デザイナーへ
“柄”を生み出す演奏家
桐生で唯一の絹専門の染め屋
今もなお現役で筆を握る図案作家
2人の整経屋からみた現実と未来
高速化に対応して世界屈指の職人へ
織物の基本
機械の高速化により変化
機拵えの仕事
織機について〜ビデオを見ながら
職人の趣味
経営者と職人
桐生織物の職人たち
機械直しから紗織の名人へ
全盛期を支えたお召し織物の稼ぎ頭
経糸と共に繋いだ夫婦の絆
商品の価値を決める最終段階
桐生の織物産業を陰で支える
あの光景を再び。桐生で八丁撚糸機を動かした立役者
シンポジウム
職人が語る桐生お召しの系譜

ちょっと一息/コラム
お召しチャート
編集後記

 

様々なビデオを使っての説明。中には佐藤さんがご自分で撮影されたものもあった。

架物についても黒板を使って頂いたため、非常にわかりやすい説明であった。

糸に入った撚りの説明をする佐藤さん。

実演を見たり実際に自分で触ってみることで学生達も楽しみながら話を聞いていた。

ビデオで見て実物に触れる。その様子はまさに体験学習。

あまりにも普通に世界の技術について話される佐藤さん。桐生で仕事をしていても、その視線は世界へ向いている。

学生達も佐藤さんのお話に聞き入っていた。

佐藤さん自作の架物の模型。2枚付いている目板は佐藤さん考案のもの。