――前回のインタビュー原稿を読んでとっても気になったんですけど、桐生に大物の社長がいなくなったって言ってましたよね?
佐藤 あ〜、いなくなった。淋しい。昔は俺らが現場で仕事してるとね、機屋の親父がなんやかんやと話しかけてきたもんだったよ。そうすると仕事の手を止めなくちゃならないがね。それでこっちが黙っちゃうと、社長は周りを掃除なんかしながらずっと一回りして、また話かけてくるんだよ。職人上がりの社長っていうのはそういうもんだったね。
――今の社長は、割と職人さんとの関わりは少ないんですか?
佐藤 そうだね。今の社長はあんまり喋らないよ。営業上がりの人が多いから「あ、ご苦労さん」で済ませちゃう。昔は側へ来ては「どうだいオートバイは?」とか「どうだい野球は?」なんて言って回ってたよ。
――仕事以外のことを聞かれるんですか?
佐藤 そう、仕事以外のことばっかり。「あれ?今何が言いたかったんだろう」ってよく思ったさ。けど、そうやって交流をはかってたんだろうな。本当にそういう社長が少なくなっちゃった。まぁ今は経営のことばかり考えているってことなんかねえ。「この人はちょっと遅刻が多いからクビにして人件費削減」とかな(笑)。
日産の社長なんか見ると、不景気だからやっぱり一番に人件費を抑えなきゃって、高給取りからぼんぼん落としていったろ?それである程度地盤作ったら、今度はエリートを1500人採用して、業績をどんどん伸ばしていった。おかげで一時400円ぐらいまで落ちた株が1200〜1300円ぐらいまでになれたんだろうな。
――でも織物みたいに、昔ながらの経験が生きる仕事だと、社長がお金勘定ばかりに走っちゃうっていうのも、どうかなって思いますけどね。
佐藤 今となれば、あの頃の社長っていうのは、そうやって自分のところの人間を育てていったんかもしれないよね。時代の流れっていうのか、そんなところ一つ取ってもだいぶ変わりましたよ。 |