桐生お召しに関わる職人たち
桐生お召しと職人の系譜
桐生市老人クラブ連合会/NPO法人桐生地域情報ネットワーク

佐藤 俺はね、織物やる前は野球で飯を食おうと思ってたんだよ。弟は甲子園まで行ったけど、俺はあと一歩ってところで行けなくてさ。こうなったら野球で大学行ってプロになるぞって思ってた。そしたら親父が34,5才だったかな、大腸ガンで亡くなってね。それでこの商売を継いだんだ。

――お休みの時とかは、どんな遊びをしてたんですか?

佐藤 当時は趣味は仕事っていうぐらいだったけど、バイクには凝ったな。

――今も乗ってらっしゃるんですか?どんなバイクなんですか?

佐藤 3年前にやめたんだけど、でっかいよ。2300ccだもん。じゃあちょっと写真見せてあげるよ。(写真を持ってきて)これ総重量が360キロ。ハーレー・ダビットソンだよ。

――おお、ハーレーだ!

佐藤 今はね、仕事の合間に百姓やって楽しんでる。

――前回のインタビューのとき、お手製のスイカを頂きましてとても美味しく頂きました。ありがとうございました。でも少し変わったスイカでしたね。

佐藤 ああいうのは棚で作るんだよ。要するに太陽っていうのは東から出て西へ沈むがね。それが棚だと四方に移動できるから、全部に日を当てられるでしょ。そうすると甘くなり、大きくなるってことなんだよ。

――切る時にすっごい皮が硬くて、びっくりしました。

佐藤 あれは半端じゃないよ。うちだって包丁の上からとんかちで引っ叩くんだもん。9.5キロあったから、相当大きいよね。

――4分の1でもすごく大きくて、形も楕円形でした。

佐藤 ラグビーボールと思えばいい。

――アメリカで売ってるウォーターメロンみたいな?

佐藤 新型のスイカでね、2年前ぐらいから出来たのかな。ブラックボールっていうのを掛け合わせてるんだよ。

――ブラックボールっていうからには、黒いってことですか?

佐藤 そう、真っ黒。でかいやつは1個6千円から7千円するんだよ。

――実がしっかりしていました。

佐藤 また来年来ればあげるよ。

――ありがとうございます。他にもお野菜とか作ってるんですか?

佐藤 いや、大体瓢箪が本命。俺はね、群馬県の支部長やってるんだよ。

――瓢箪の?

佐藤 うん。全日本愛瓢会っていうのがあって、そこの支部長でね。名誉会長は皇太子の弟の秋篠宮さまだよ。今は大型のが流行ってるんだよね。だけど今年は1個大きなのを割っちゃってさ。瓢箪に22ミリの穴を開けて、そこから水を入れて中を洗うんだけど、ホースの太さが19ミリぐらいあるんだよ。で、ホースを入れっぱなしでいたら、溢れた水が逃げ道なくしちゃって割れちゃった。でかい瓢箪になると周りが120センチ以上あるんだよ。関東でも三本の指に入るかな。

――そんなに大きいんですか!是非見せてください。

佐藤 じゃあ後で持ってくるから、自分で絵描いてみるといいよ。小さいのや丸いのがあるから。

――(腕で輪を作って)これで1メートルはあるかな?

佐藤 俺の胴回りが大体1メートル(一同笑)。

――スイカはこの時期はやってないんですか?

佐藤 時期が違うってのもあるけど、もう瓢箪が始まると本当に急がしいんだよ。瓢箪っていうのは夕方に交配させないといけないからね。めぼしいのには網をかぶせておいて、雄花の花弁をとって雌花のにつけてやるの。

――佐藤さんがやるんですか?

佐藤 そう。夜、明かりつけてやってると、瓢箪の上を数なんて分からないくらい蛾が飛んでるよ。交配させたら、今度はカボチャを台木にして継ぐんだな。台木っていうのは継ぎ木の台になる木のこと。カボチャは連作は効くし病気にも強いし、根が強いから台木にはもってこいなんだよ。
 これはNHKで聞いたんだけども、兼六園の桜の老木が枯れそうだから「なんとかして花を咲かせて下さい」って、京都の庭師に接ぎ木を頼んだんだって。そしたら2回失敗して、もういいと言われたらしいんだけど、庭師にしてみればおもしろくないんで、是非3回目をやらせてくれって言ってね。今度は運転手をつけて、その穂木を10本ぐらい口にくわえて京都まで帰って接ぎ木をしたら、見事ついたんだって。要は唾液ってのは殺菌力があるし、口の中だから保温力もあって、それで老木の芽が蘇ったんだろうな。
 だから俺は必ずキュウリを作るにも瓢箪を作るにも、台木に穂木を入れる部分には楊枝をさしておくの。穂木の方は台木の準備ができるまで、切ったところを口にくわえてるんだよ。よくうちのおじいさんが「台木に勝髟莓リはなし」って言ってたもんな。バラなんかだったら、台木には桑の木がいいんだよ。じゃあ瓢箪持ってくるからさ。(瓢箪を取りに行く)

――(瓢箪を見て)すごい、大きい!あれ?けど、軽い。

佐藤 中身はないから軽いんだよ。

――(瓢箪から出てきた種を見て)わあ、何か入ってる。

佐藤 瓢箪に直径20ミリの穴を開けて、そこへドリルに付けたUの字型のワイヤーロープを入れて、ガラガラ回しちゃうんだよ。それからお湯入れて、金魚のヒーターがあるがな、あれぶっこんじゃうんだよな。あとは温めておいて腐るまで待つん。最後に除菌のためにキッチンハイターを入れてな。

――種も大きいんですか?

佐藤 うん、大きいよ。(瓢箪を抱えている姿を見て)似合うがね(笑)。

――名前呼んだら吸い込まれそう(笑)。一番太いところだと両腕いっぱいだ。

佐藤 (小さい瓢箪を持ってきて)こういうのとかどうだい?

――これかわいい。家に持って帰りたい。

佐藤 いいよ、持っていきなよ。

――(丸形のを見て)これもかわいい。でもやっぱり瓢箪っぽいのはこっちかな。

佐藤 そうだよな、これはぽてんとしてるよな。そしたら2つとも持ってけ。

――わあ、本当ですか?やった、嬉しい!

佐藤 これはね、オカベマリっていう瓢箪なんだよ。

――オカベマリ?なんか人の名前みたい。形がとっても綺麗。これを作っちゃうなんて、すごいですね。

佐藤 そうだよ、作ったんさ。これの名人だもん。くびれがあるのを瓢箪といって、くびれがないのをかんぴょうっていうんだ。だからスイカも全部かんぴょうに分類されるんだよ。


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はじめに
桐生お召しから龍村織物専属デザイナーへ
“柄”を生み出す演奏家
桐生で唯一の絹専門の染め屋
今もなお現役で筆を握る図案作家
2人の整経屋からみた現実と未来
高速化に対応して世界屈指の職人へ
織物の基本
機械の高速化により変化
機拵えの仕事
織機について〜ビデオを見ながら
職人の趣味
経営者と職人
桐生織物の職人たち
機械直しから紗織の名人へ
全盛期を支えたお召し織物の稼ぎ頭
経糸と共に繋いだ夫婦の絆
商品の価値を決める最終段階
桐生の織物産業を陰で支える
あの光景を再び。桐生で八丁撚糸機を動かした立役者
シンポジウム
職人が語る桐生お召しの系譜

ちょっと一息/コラム
お召しチャート
編集後記

 

ハーレーに股がる佐藤さん。ついこの間まで乗られていた。

このサイズの瓢箪を作られている。収穫時は10キロほどの重さになる。

塗装が施されフタの付いた瓢箪に学生達も興味津々。

学生達はそれぞれ形の気に入った瓢箪を頂いていった。