――もう一度帯を見せて下さい。これはなんていうものでしょう?
小平 これね、秀美。着物の柄だね。
――光沢があってすごいなあ。
吉田奥さん 涼しそうね。
小平 それはアセテート。
――あの、絹に似せて作ったやつでしたっけ?
小平 そうそうそう。かすりがあるからキラキラして、薄いとこと濃いとこが出てくるの。こういうのは、女中さんや仲居さんが着るやつ。
――あ!これバイトで着てる!こんなところで見るなんて(笑)。これ、かわいい柄ですよね。
小平 若い柄だね。時代劇とかでもよく見かけるよ。
吉田奥さん 色がいいね。みんな凝った色だわ。
小平 こっちは巫女さんが着るやつ。ほとんどのものは手掛けて来たね。
――職人技だ。これ、先ほど織機に掛かっていたのと色違いですよね。
小平奥さん これも柄色が黒か白かで随分印象が違っちゃうのね。
――隙間から糸が見えるんですね。
小平 そう、穴があいてるでしょ。それみたく四角の目があいてるのが紗。こういうふうに横段になって透けてるのが絽。三本絽と五本絽があるんだけど、これは五本のほうだね。三本絽はもっと細かくなる。奇数でなくちゃ穴が開かない。
――これは?隙間が空いているのに裏表の色が違いますね。
小平 うん、二重になっていて、表が黒だったら黒、裏は白なら白で経糸の一部分が重なってるから、表と裏で色が違うんだよ。懐かしい柄だなあ。
吉田 縫い取りお召しってのは、裏に必ず糸が出るの。織り方によってだけど、裏側でばらばら遊ばないように止めちゃうんだよね。
小平 けどね、こういう紗は後ろの糸を切らないで、このまま整理して着物にしちゃうようになった。かえって裏にちらちら写るんがいいっていうんだいね。
吉田奥さん いろいろ考えているわねえ。
小平 やっぱり工夫しないとさ。売れなくなって来たから(笑)。
(たくさんの色が使われている帯を出して)
小平 この中で一番凝っているのはこれだよね。こういうのは、配色するのからして苦労でね。
――この浮き出ている部分はどうやって・・・?
小平 架物や棒刀なんかで操作するんだよ。地は棒刀で織って、紋紙の穴が開いているところが、こういう柄になるわけ。
――柄の部分が凹んでいますね。
吉田 でね、織物っていうのは、作り手はずっと裏側を見て織ってるわけなんだよ。さっきも話したように、紋紙が糸の上げ下げを操作するんだけど、糸が上がったのと下ったのによって、こういう模様が裏と表にできるんだね。
――単純なんだけど、すごく複雑。
小平 結局原始的ってことなんだよ。 この経糸は4千本近くあるんだけど、1本でも間違えちゃったら駄目だし、隣の糸にくっついたり、引っかかったりしてもうまくいかない。とにかく面倒くさい仕事だね(笑)。だから今の若い者なんかはやらなくなるし、やり手がいなけりゃ機そのものもなくなっていくしね。この辺だってさ、昔は何軒も機屋があったんだよ。
――でも、自分にしかできないっていう自信はないですか?
小平 そりゃあ自信を汲んだうえでやってるんだよ(笑)。けど、とにかく食うのが先決だしな。今まで本当にいろんな仕事をしてきたもんだよ。
――極論ですよね。好きな仕事でも「それで食っていけなかったら」ってのがありますしね。
小平 そう。だから興味が持てる仕事だったら尚更のこと、自分で考えていかなきゃ駄目だよ。要は売れるもん作ればいいんだから。
吉田奥さん 一を聞いて十を知るって言うほどにね。なんでもよく考えてやってますからね。
小平 他で織れないものをどうやったら織れるか。新しい機械なんかが出てきても、それをどう取り入れれば、よりいいものができるんか。そうやってあれこれ考えてやってきたんだよ。
小平奥さん そのかわりね、お金にはあんまりなんないの(笑)。研究っていうか、そんなんばっかりしてるんだから。要は本当に好きなのよね。
(一同笑) |