長田 森秀のナンバーワンだった機織りさんの岩倉さんに伺いますが、忙しいときは一人で4台ぐらい織機を受け持っていたと聞いたのですが、これはどういう形で受け持っていたんですか?
岩倉 結局、操作するときは1台ずつですから、複数の織機を持つときは比較的操作が易しいものと組み合わせて複数持つんですね。1台難しいものだったら他の3台は簡単なものというように。
長田 易しいものとはどういったものですか?
岩倉 柄が簡単なものです。複雑なものだと手間が掛かりますからね。
長田 糸が切れたときは岩倉さんはご自分で繋ぐわけですよね。織り終わったときはどうするんですか?
岩倉 始めの頃は自分で繋いでいましたが、そうすると2時間ぐらいかかるので、よじり屋さんに頼んでやってもらっていました。よじり屋さんに頼むと4000本ぐらいのものを1時間足らずで繋いでくれるんです。
長田 普通は割り結びという結び方ですが、よじり屋さんは特殊な結び方をするそうですが、それはどういったものですか、吉田さん。
吉田 それは名前の通りよじるんですね。よじりながら繋ぐんです。今映像が流れていますが、このようによじっているわけです。
長田 これはよじり屋さんだった小倉さんのところへ取材に行ったときの映像ですが、この仕事について非常に興味深いお話を聞きました。
よじり屋というのは繋ぐのが仕事のわけですが、その為にまず織り上がった織物から糸を切るそうです。そのとき素手で切るわけですが、絹糸というのは非常に強いため指を切ってしまうそうです、その為薄くした塩酸を糸にかけて弱くしたり、糸を切る小道具を自前で作ったりと色々工夫をしたそうです。
さて、再び岩倉さんに伺いますが、新しく機織りさんが入ってきて、仕事がちゃんとできるようになるまではどの位時間がかかるものですか?
岩倉 これは吉田さんに聞いた方が宜しいですね。
吉田 これには個人差があります。一概には言えません。
長田 新人に技術を教える役目の人がいたそうですが、どういったところから教えるんですか?
吉田 一般の機屋さんはわかりませんが、うちの会社では、何でも出来るという年配の方を、織機を与えずにフリーで置いておきました。そして休む人が出た場合など、その人に仕事を代わってもらいました。そういうフリーの人に、新人の教育係をやってもらっていたんです。
最初はまず、坊主結びとか割り結びなどから始まって、織機を受け持つようになったら、また新人に張り付けて指導してもらいました。そういったことで、森秀で仕上がった人は規則正しく仕事も良くできると、当時より聞いておりましたし、そういった方が他の会社で働くことになった場合でも、森秀で覚えてきたから上手だ、と聞くこともありました。
長田 実際に織っているところを拝見させていただきましたが、織物というのは織り上がってくると表裏逆さまに出てきますよね。これはうまく織れたかどうかはどうやって判断したのですか?
吉田 それは工夫して、織っている反物の下に鏡を置いたんです。
長田 岩倉さんが入った頃には、鏡はありました?
岩倉 私が入った頃はまだありませんでしたね。途中で鏡がついてだいぶ楽になりましたね。
吉田 鏡が入ってからは織ってすぐに傷が付いてないかなどのチェックが出来る様になって、トラブルもだいぶ減ったようですし、機織りさんもだいぶ楽になったようでした。
長田 岩倉さん、鏡が付いてから効率に違いが出ましたか?
岩倉 ええ、全然変わりましたね。鏡が付く前はわざわざ下を覗かないといけませんでしたから。
長田 わかりました。ありがとうございました。 |