長田 まずは上岡さんにお話を伺いたいのですが、お召しが製品になるための最後の大切な工程、湯のしについてお聞かせ下さい。湯のしというのはシボ取りで縮んだ幅を元に戻すわけですが、これは織物によって幅も違うわけですよね。
上岡 そうです。これは撚りによって違ってくるんですよね。
今ちょうどシボ取りをしている映像が出ていますが、糊を落とすことによって、緯糸に撚りが入っているために幅が縮むんですね。縮んだ幅を湯のしすることで出来るだけ元の幅に戻すんです。
長田 今ちょうど画面に延ばしているところが出ていますが、これは蒸気を当てて延ばしているわけですよね。これは相当熱いものですか?
上岡 熱いですね。火傷して火ぶくれになって、尚且つそれを我慢してやって火ぶくれが固まってくると、手が亀の甲羅みたいに硬くなって、そうすると熱くなくなってくるんです。
長田 取材のときに「幅を広げるのは指で広げるんじゃないよ」とお話していただきましたがどういうことなのでしょうか?
上岡 そうですね。これは膝で広げるんです。指は押さえている程度です。膝で広げるというのが親からの言い伝えなんです。
長田 これは機械にかけてぐるっと回っているわけですが、一反の幅を揃えるのに何回ぐらい回すものですか?
上岡 3回ですね。普通の織物だと。
長田 織り上がったときに織物の模様がずれると聞いたんですが、その辺も直すんですか?
上岡 そうです。だからこそ3回ぐらい回さないと柄がまっすぐにならないんです。
長田 なるほど。回す人と二人で力をあわせて作業するわけです。
…今映っているのが砧打ちですね。
上岡 これで風合いを出すわけです。肩にしんなりと掛かるような良い味を出すんです。
長田 吉田さん、そもそも風合いとはどういうものですか?
吉田 風合いとは、感触、手触りです。お召しの場合は生地そのものがしっかりしているというのが特色なわけですが、その中でも突っ張っているんじゃなくて、しっかりしていて更にしんなりしているという風合いを出すためにこうやって叩くわけです。
これは機屋さんによって風合いの違いがあるため、それぞれの機屋の味を出す最後の大事な作業です。
長田 上岡さんは色々な機屋さんから仕事を請け負っているわけですが、それぞれの機屋さんの味というのは全部覚えているんですか?
上岡 ええ、体で覚えています。
長田 この木槌は何の木でできているんですか?
上岡 カシやケヤキですね。
長田 これはお父様の時代から使われているとのことですね。
上岡 そうです。親からだからもう、80年ぐらい使っています。長く使っていると木槌自体にもつやが出てきてくるんですね。
長田 なるほど、ありがとうございます。次に移らせていただきます。 |