桐生お召しに関わる職人たち
桐生お召しと職人の系譜
桐生市老人クラブ連合会/NPO法人桐生地域情報ネットワーク

長田 次にお召し独特の強撚糸、糸を撚るということについて藤井さんにお話をしていただきたいと思います。
 後ろにある八丁撚糸機は、県庁で展示したときは動かなかったんですが、今回は藤井さんと森秀の前原さんに手で回して動かせるようにしていただきました(参照)。
 さて藤井さん、八丁撚糸機でやらないとお召しの緯糸はできないというところを教えてください。

藤井 八丁撚糸機というのは緯糸の強撚糸で作り出す機械で、それによってお召しの特徴であるシボを生み出します。お召しの良し悪しは緯糸で決まると言われていました。
 強撚糸というのは普通の糸よりも多く撚りを入れた糸で、普通の糸だと200回〜300回のところを強燃では2000回〜3000回入れます。そうすることによって、普通より大きな縮む力を利用してお召しにシボを作り出すわけです。
 今回、幸いにも八丁撚糸機を据え付けて、しかも糸を掛けて撚りを入れるということが再現できました。前回県庁で行ったときは整備ができていなくて、糸は掛けましたが大きな輪が回せない状態でした。
 今回、森秀さんの社長さんから「うちのを持っていって使っていいよ」というお話を頂きましたので、これはもう50%は成功したなと思いました(笑)。使っている糸も、実際に使う生糸だと高価なものなので、森秀さんのところで余っていたものを頂いて使っています。

長田 シボの具合というのは撚りの多さで変わるということですか?

藤井 撚りの数でも変わりますが、そのほかに経糸や緯糸のかかり方や、糊付けのときの糊の量でも変わってきます。
 ですから昔は、各機屋が染めから糊付け、シボを作る八丁、そういったものを全部自分の工場だけでこなしていました。そうしないと同じ織物なのに味が変わってしまうんですね。撚り具合や糊付けの糊の量などの細かいデータは、今で言うところの企業秘密でした。

長田 緯糸の話なんですけど、お召し緯糸は八丁撚糸機じゃないとできないそうですね。

藤井 はい。一見すると八丁撚糸機は旧式な機械のように見えますけれど、肝心なところは洋式の金属製の機械にはできない部分があります。
 錘に管がはまっていて外側にある枠に巻き取っていくわけですが、管から糸が出るときに錘の先に2、3回絡まって糸が出ていきます。これが重要なんです。後は錘先から巻き取る枠までの距離。これは長い方が平均的に撚りが掛かります。短いと撚りムラができてしまいます。
 最近の機械では効率を求めるあまり場所を取らないことや、糸を多量に管に巻くことを重視するために強燃が掛けられないわけです。

長田 昔お召しを織っていた方に、現在でも手機を使って織ることができるかと聞いたところ、技術的な部分よりも糸が手に入らないから無理だと言われました。糸があれば織ることはできるそうですが、実際、糸を作ってもらうとなると、どの程度の需用が必要なんでしょうか。

藤井 それは難しい質問ですね。八丁撚糸だけで言えば簡単なんですが、その前の工程がたくさんありますから。練り、染色、糊付けといった工程を踏まなければ撚糸をかけるといった部分までこないんです。ですから手機だけで商売になるのか、ということを考えると簡単に答えは出ないですね。

長田 その辺がクリアできれば糸が作れるわけですね。いつか作れる日がくるといいですね。


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編集後記

 

今回は市老連のメンバーとして参加頂いた藤井さん(参照)。

八丁撚糸機のことを知り尽くしているだけにその再現の難しさもわかる藤井さん。