桐生お召しに関わる職人たち
桐生お召しと職人の系譜
桐生市老人クラブ連合会/NPO法人桐生地域情報ネットワーク

――染色のお仕事っていうのは大体何時頃終わりますか?

橋本 う〜んと、日が落ちるちょっと前ぐらいですね。暗くなっちゃうとちゃんと色が見えないから。まあ今はほら、昼間と同じ色の発色の蛍光灯があるんだよね。その蛍光灯が全体に付いてるなら良いんだけど、一灯だけ付いててもその場だけで色は判断できないからね。色が染まっていく過程が良く見えないと駄目。だからやっぱり暗くなったら終わり。これからの季節は早いよ。4時過ぎるともう見えなくなる、5時になったら真っ暗だもん。

――染めるのにどのくらいの時間がかかりますか?

橋本 普通の酸性染料・直接染料の場合は1〜2時間ですよ。30℃〜40℃ぐらいの温度から始まって92℃くらいまで1時間のうちに徐々に徐々に上げていき、その間に全部色を付けていくわけです。手で染める場合は1時間よりもっと長いですよ。徐々に徐々に温度を上げて染めていかないとムラに染まったりする。

――染める作業で一番大変なことはなんですか?

橋本 全部大変だけどね。色が悪くては商品にならないからね。
 例えば、注文でこういう色に染めてくれって、サンプルが送られてくるんだけど、色そのものっていうのは案外見る人の感覚によりけりだから。私はもっと黄ばみがある方が良かったとか、青みがある方が良かったとか、それを汲み取るのが結構大変ですね。
 あと、絹糸は染める前の精練っていう、いわゆる練りをかけることが一番重要でね。普通みなさんがシルクとか絹とかいうと、こうふっくらした艶のあるものを連想するけど(精練前の生糸を差し出しながら)我々のところにくる段階の糸はこんなに硬いんですよ。柔らかく艶を出すための精練に手間暇がかかります。

――硬い!なんかヒゲみたいですね。これってもしかして1本なんですか?

橋本 そうだよ、すごく長いんだよ。
 このラベルにも書いてあるけど、枠周1メートルちょっとで4000回。4000回も巻いてある。精練するとふっくらして、艶がでる。昔はそれを竿にかけてやっていたね。このぐらいの竿にね。それを2時間ぐらい精練する液の中に入れて、時々こう掻き回してやるんだ。糸の半分は釜に入っていても、半分は外に出ているからね。

――生糸って束1つでいくらぐらいするんですか?

橋本 随分安くなっちゃってもう1キロで7〜8000円ぐらい。高い時で16000円ぐらい。今こういう糸は前橋のほうの糸屋さんから来るんだよ。住吉町かな。

石川 前橋だって絹の町だからね。糸の町、前橋だから。昔はあの辺りにも沢山あったんだよね。桐生だってちょっと郊外に出ると桑畑がワッっとあったのに、今ではどこにもないんだよね。


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はじめに
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シンポジウム
職人が語る桐生お召しの系譜

ちょっと一息/コラム
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編集後記

 

お仕事の話をお聞きしている時は表情も引き締まる。

精錬する前の生糸を手にする石川さん。これが1本の糸となっている。