――染色を長年続けられる面白みは何ですか?
石川 俺は、見た感じ色がうまく(染め)上がった時だろうな。そんなような気がするよ。
橋本 うちにはよく仕事中に遊びに来る連中がいるんだけど、ちょっと顔色見るだけで、「あっ今日は調子良いな」とかまたは「こりゃ悪いな」とかわかるらしいよ。
石川 運もあるけど勘だからね。
橋本 今は目方で染料計って、その分量のデータを取っておく。次のやつもそれでやるから、同じ色にはなるんですよ。微妙な差は出たりするけどね。
石川 だからね、うるさい織物になると、織っていくうちに違った製品になっちゃう時があるんですよ。さっき織り上げたものと今やっているもの、同じ黒でも発色が違うなっていう具合に。「黒」って言っても、赤みのある黒と青みのある黒とではだいぶ変わってくるからね。
――織っている間に「これ色が違う」ってなったら、それはもう商品にはならないんですか?
石川 そうだねえ。絶対だめ。注文はこんな色じゃなかったってことになるからね。昔のお召しはほとんどが無地、もしくは飛び柄っていって、柄がリズムよく並んでいるものが多かったから、よく違いが出ちゃったね。ロットによって違ってくることがあるね。やっぱり水の量とかで違ってきちゃうんだよね。
――湿度とか温度とかも関係ありますか?
橋本 湿度は関係ないね、染めの場合はね。
石川 乾かすのは自然?
橋本 うん、自然が一番良い。今日みたいに表に出しておくのが本当は良いんだけど、なかなか条件が合わない。例えば風がちょっと強かったりすると、ふわふわしてるからくしゃくしゃになっちゃう。そうなると次の糸繰りっていう工程の時に、引っ掛かっちゃって回らないんだよね。
――強い日差しで色が褪せてしまったりとかしないですか?
橋本 色によっては外に出せないのもありますよ。
石川 けど絹はそんなに変化はないんでしょ?
橋本 いや、ある。ブルーの綺麗な色とかやっぱり変わる。
石川 紫も変わりやすいよね。
橋本 紫も怖いよね。染料自体が影響を受けやすいから、どうしても避けられないんだよ。
一応染料によって、これは外で乾かす、こちらは中でというように分けてはいる。例えば白の中でも特に蛍光の白は、外に出すと1週間も経たないうちに黄色くなっちゃう。だから家の中で乾かしますよ。
製品で言えば結婚式で使う白いネクタイなんかだね。部分的なものだから分かりにくいだろうけど、あの明るさは出にくい。だから絹糸の場合はなるべく白は使わない方が良いね。精練した上がりで黄ばみが残る。その白が一番良いわけ。
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