桐生お召しに関わる職人たち
桐生お召しと職人の系譜
桐生市老人クラブ連合会/NPO法人桐生地域情報ネットワーク

――前回の原稿を読んでもらってどうしても気になっているのが猫の毛なんです。

太縄 そうですか、せっかくだからお見せしましょう(笑)。
 これはシャトルに入れた糸のブレーキなんですよ。ただ管に巻いただけじゃ撚りが強いからクルクルって巻いても取れてきちゃうんですよ。もう最近は出なくなりましたけどね。当時は月に50枚、80枚って注文がありましたからね。

――どこから仕入れるんですか?

太縄 前橋の清水物産という皮屋さんがあるんですけど、注文するとちゃんと持ってくる。けどお客さんの注文が難しいんですよ。「皮の色が黒くっちゃ糸が見えないから駄目だ」とか、硬いとか軟らかいとかね。これは、このまま貼るんじゃなくて糸がほぐれやすくなるようにしてシャトルに貼るんですよね。

藤井 三味線にだって猫の皮だよね。

太縄 そうですよね、三味線と一緒ですよね。

――こんな模様の猫いるもんなぁ(苦笑)。

太縄 黒はなかなか売れなくてさ。でも一番良いのはリスの毛なんだよね。毛が短くて良いんですけどなんせちっちゃいでしょ?それに散弾銃で捕るから穴だらけなんだよね(笑)。猫はどうやって捕まえてくるんだか。

――でも、猫にたどり着いたわけですからね。

藤井 いろいろ何が良いか考えたんだろうな。

太縄 これが間に合わないとはウサギもよく入ってきた。だけどウサギは毛が抜けちゃって織物に入るからって嫌がられましたね。

――……猫を皮屋さんに卸す人もいたんですかね?

藤井 猫なんかとっ捕まえられるよ、飼ってる猫は捕まえられるよ。

――飼ってる猫じゃ駄目ですよ(笑)

藤井 飼っててもいいんさね、人馴れしてるから。うちは3匹いるけど。

――いやいやいやいや、だから駄目ですってば(笑)。

藤井 やっぱ、かわいそうだね。

太縄 猫が車に轢かれてるの見ると、もったいねぇなぁ4000円もするのになって(笑)。

――4000円もするんですか?

太縄 今はもっとじゃない?当時は3〜4000円くらいしてましたよ。

――当時っていうと昭和3〜40年代かぁ。

太縄 今残っているのは10年は経ってるけど、もうほとんど出なくなってるね。

藤井 レピアなんかに変わっていってシャトルを使わなくなったからね。

――今はまだ桐生でも古い織機が動いてますよね?

太縄 動いていますけど、10年以上前から猫の毛の代わりナイロン製のスプリングテープを使ってるの。これは強いのから弱いのからいろいろあるんですよ。

――先日、小平さんのところに取材に行ったんですけど、使っているのが古い織機で、シャトルに毛が付いていました。

太縄 こういうのでした?

――猫の色してました(苦笑)。

太縄 じゃあやっぱ猫だな。今はね、一枚物じゃなくて、ボール紙に細く切ってグルグル巻きつけてあるんだけど、そういうものが欲しいってくることもありますね。昔は良いとこ取るんで1枚物を持っていって、良いところだけを斜めに切って使ったんだけどね。


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はじめに
桐生お召しから龍村織物専属デザイナーへ
“柄”を生み出す演奏家
桐生で唯一の絹専門の染め屋
今もなお現役で筆を握る図案作家
2人の整経屋からみた現実と未来
高速化に対応して世界屈指の職人へ
桐生織物の職人たち
機械直しから紗織の名人へ
全盛期を支えたお召し織物の稼ぎ頭
経糸と共に繋いだ夫婦の絆
商品の価値を決める最終段階
桐生の織物産業を陰で支える
桐生の織物産業を陰で支える
機料屋の仕事
桐生から無くなる機料工場
客観的に見た桐生織物業界
織物の道具
意外な接点を作った機械
藤井さん家の機械の行方
錘・垂ず輪・スピンドル
お召しが衰退したもう一つの原因
八丁撚糸の復活
猫の毛皮
桐生の織物機械
大縄機料に残る様々な道具と機械
海外に残る桐生の織機
シンポジウム
職人が語る桐生お召しの系譜

ちょっと一息/コラム
お召しチャート
編集後記

 

普段見慣れている動物だけに、猫の毛皮はショックであった。

シャトルにとって大切な猫の毛皮も今でも貴重品。現在は下の写真のようなテープに変わっている。

様々な織機のタイプを把握されているのは機料屋ならではなのかもしれない。