――実際に扱っている商品について、具体的にお聞かせ下さい。まず、この棒は何に使うものなんですか?
太縄 ああ、それがシャトルに替わって、1分間に250回ぐらい動くものです。棒の先端に糸を引っ掛けて運ぶんですね。レピア式といいます。今ではどんどん変化して、今ではバンドに変わってきたんです。
バンドレピアと言いましてね。ベーク製なので軽くてスピードが出るんですよ。シャトルだとどうしても摩擦が起きてしまいますが、これだと汚れも出ないし糸も傷めない、良い製品なんです。森秀さんにも使ってもらっています。
機屋さんからしてみると、やっぱり最終的にはエアーが一番良いんでしょうけど、エアーはコストが結構かかるんですよ。あの細い糸を空気で飛ばすために、だいたい4馬力から5馬力も食っちゃいますから。織機自体は2馬力ぐらいで動くっていうのに、エアー用にそれ以上の動力が必要となると、なかなかね。
本当は昔の話のほうが良いんでしょうけど、なにぶん子供心にしか覚えてないもので。まあ私が経験した織物業界の一大革命と言えば、さっき話した緯糸の探知装置、フィーラーモーションが発明されたことですかね。それがなかった時は、大変だったんですよ。けど、今はこいうシャトルそのものを使っているところがあんまりないですけどね。
――その探知装置というのはどういう仕組みだったんですか?
太縄 シャトルの底に穴が開いているんですけど、糸がなくなってくると止まるんですよ。完全に空になる前に止まってくれるので、傷にならずに済むんですね。
――シャトル等の交換時期というのはありますか?
太縄 そうですね、交換周期が決まってあるものじゃないですが、消耗品部分は多いです。例えばこれはトングレスといって、中の棒がなくてゴムを使って管を押さえているんですが、ゴムが消耗してくれば交換しなくちゃならないし、底が減ってきても取替えることになります。やっぱり、シャトルというのは傷むんですよ。今これだと7000円もしますからね。その棒は修理しているものですけど、新しいものだと5万円ですよ。ひとつ壊しただけでも大変なもんです。
このシャトルに付いている毛、何の毛だと思います?昔かなり売れたものなんですが、猫の毛なんですよ。今はなくなってきているので人工の毛を使いますけど。
――これはショックですね。猫の形そのまんまという感じですしね。
太縄 機屋さんに色々と難しい注文をされるので、昔はこれを10枚も20枚も持って行ったわけですよ。黒じゃだめだとか言われるんですから。
――毛だけじゃなくて皮ごとなんですね。でも手触りは良いですね。というか猫を撫でているようだ。
太縄 これが猫の変わりの毛です。今でこそ猫の毛皮はなくなっちゃったけど、昔はそれを扱ってる業者もありましたからね。
――あと、機械を運ぶ専門の運送業者さんがいらしたと聞いたんですが。
太縄 ああ、たくさんありましたけど、今残っているのは「いまげん運送」さんですね。今日もうちの倉庫から機械を運んでいきましたけど、あれもなかなか大変な仕事ですよ。現場は非常に狭いところですし、しかもその中で4メートルもあるような高いところへ上げたりするんですから。
吉田 何しろ重たいものを組み立てるんだからね。
太縄 昔は現場へ行って、泊り込みで組み立てたものですね。今は現場組みはほとんどなくなっちゃったけど。
15年ぐらい前から紋紙を使わないダイレクトジャカードというのが出てきたんですが、私もこんなに早く実用化するとは思っていませんでした。フランスで紋紙ができた当初は最先端技術だったそうですよ。それが今では電子化で、紙を使わないでフロッピーから作れるようになったんですものね。最初はスピードが出なかったそうですが、今はもうかなり上がってきましたし。まあ桐生の織物は、そんなにスピードが必要なものじゃないですから、森秀さんは低速レピアをお使いですけど。
吉田 今ならもっと速く動きますけど、昔は90回転がお召し織機の標準だったんです。それ以上速くしちゃうと、出来上がったものが平べったい感じになっちゃうことがありましてね。
太縄 私には風合いというものがわからないんです。難しいものですよね。
吉田 あれは感覚ですからね。機屋によって味がありまして、うちはこういう味というのを決めて作っていましたよ。
太縄 機屋ごとに工夫をして味を出していた、その頃が懐かしいですね。今でも桐生は色々と研究を続けているわけですし、何とか織物の景気がうまくいくように頑張っていきたいものナす。 |